眠れるsubは苦労性

あうる

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謝罪というのは、相手の心に沿うためのものであり、あくまで相手側に対する配慮が必要となってくるもの。
そうでない謝罪とはただの自己満足でしかなく、形だけの何の意味もないものだ。
目の前にそびえたつタワーマンションを見上げ、綾史は「うわ」と一言声を漏らした。

「……社長、もう帰っていいですか」
「駄目に決まってるだろ。ここまで来たんだからせいぜいうまい飯でも食ってから帰れ」
「こんな場所で食わされても味が理解できると思えないんですが」
「安心しろ、残したら箱詰めにして持たせてやるから結城と食え」
「箱詰めとかどう考えても無理でしょ、タワマンで何をしでかす気ですか……」
「じゃ、帰りに近くの屋台やきとりでも買ってやるからそっちにしろ」
「……確かにそっちの方が有難いですけど、精神的に疲れてそれどころじゃありませんよ…」
「お前は瘦せすぎなんだから食った方がいいぞ?そんなんであのバカ犬の体力についていけるのか?あいつ絶対盛ると絶倫だろ」
「部下の性生活にまで、当然のように首を突っ込むのはやめていただけます……?」
「なら上司に向かって延々お前が可愛いと惚気話をするあのバカを止めろ」
「大変申し訳ございませんでした」

最早何も言う気力もない。
とりあえず帰ったら紬を絞めよう。
そしてしばらくの間プレイはお預けだ。

「くだらない話をしてないで行くぞ高倉」
「はい、社長」

公私をきっちり付けたところで覚悟を決め、エントランスに足を踏み入れる。
当たり前のように鎮座するコンシェルジュに要件を告げれば、マンションの上階にある住人専用のロビーへと案内を受けた。
ロビーには専用のエレベータが設置され、そこから相手が下りてくる寸法らしい。

「それでは、ただいま四宮様をお呼びいたしますので」
「よろしくお願いします」

社会人の習いとしてきっちり頭を下げ、相手の到着を待つ。

「…社長、さっきからなんか息苦しいんですけど」
「セレブ酔いだ、慣れろ」

目に入るものすべてピカピカに磨かれ、設備管理費だけでも考えるのが恐ろしい。

「社長と四宮さんとは家を通じての知人だとおっしゃってましたよね?」
「まぁパーティーで顔を合わせたことがある程度だが、一度見合い相手がバッティングしたことがあってな」
「パーティー……見合い…」
「なんだその吐きそうな顔は」
「社長も名家の生まれだったことを今思い出しました………」

セレブ酔いがひどくなった。本気で吐きそうだ。

「お前も知っての通り俺は気楽な次男坊だからな。家を継ぐわけでもなし、どうってことないだろ」
「でも、このレベルの生活をしてる相手とお見合いマウント張り合えるんですよね?」
「なんだその見合いマウントって」
「いや知りませんけど。そういうのってあるじゃないですか普通。名家は名家、みたいな」
「今の時代、名ばかりなら吐いて捨てるほどあるからな。あんなもん寄生虫以下だ」
「辛辣…」
「なら金食い虫と言い換えてやる。
……まぁ、ともかく見合い相手が俺とあちらさんとを天秤にかけてしばらく二股かけてくれたみたいでな」
「はぁ…」
「俺がその話を聞いたのは実際に見合いを受けた後だったんだが……」
「え」

ちょっとまて、今の会話の流れから言って、まさか?
冗談でしょ?と社長を見つめ、「まさか」と唾をのむ。

「四宮さんじゃなく、社長を選んだんですか、そのお嬢さん」

しかも、選ばれたにも関わらず振ったのか、社長。
だよな、だって社長は今も独身だ。

「そんなこと後だしで言われたところで知るわけないだろ。
相手方にも後からグチグチ言われてえらい迷惑をした覚えがあってな」
「……社長…」

より一層、これからの食事会がうすら寒くなったのだが、本当に勘弁してほしい。
もしや謝罪をしなければいけないのはこちらなのではないだろうか。
胃の腑がずんと重くなった。
最早食事どころではないとすっかり逃げ腰になったところで、リンという音と共に、ロビーに設置されたエレベータが開いた。
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