眠れるsubは苦労性

あうる

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広いダイニングテーブル。
並べられた料理を前に、改めて俺は思った。

「その見合い相手のお嬢さん、なんで四宮さんより社長を選んだんですかね」
「ねぇそれどういう意味?」

あははは、と笑う社長だが、そんなもの決まってるじゃないか。

「どう考えても四宮さんのが優良物件じゃないですか?」
「もしかして今の待遇だけ見て言ってる?まだ顔すら見ていないからね?君」
「いや、気を使うといけないから食事の後に顔を出すとか普通にいい人だと…」
「うん、でもdomだからね。やっぱり名家では敬遠されるんだよ、そういうのって」
「あぁ……」

その一言で全てをわかってしまうこの世の中、差別なき社会なんて夢のまた夢って感じで本当に嫌だ。

「てか社長がノーマルってのも正直怪しいと思ってるんですけど」
「うん、別に性癖とかの話じゃないから」
「誰も性癖がアブノーマルなんて言ってませんけど?」
「ペットプレイ中の綾史よりはましだから」
「駄犬呼ばわりしてても、アレ一応人間なんで」
「ワンちゃんに躾られちゃうワンちゃんとかお笑いだよね」

優雅にフォークとナイフを操りながらのこの下種な会話。

「おいしい?綾史」
「とりあえず高い肉っていうのはよくわかります」

物音ひとつ立てるのも緊張するかと思ったが、全くそんなことはなく。
あの時、エレベーターから降りてきたのは四宮本人ではなく彼の秘書で。
気を使わせて申し訳ないとの言葉を告げられた後、上階のレストランに席を用意してあるから先に食べていてくれと。
住人専用の一流レストランへと流れるようなエスコート。
わざわざ貸切にしたのかほかに客もなく、高層階の窓から見える景色を肴にひたすらくだらない会話を続ける始末。

「これ、俺と社長だったからいいですけど、平社員と社長だったら普通に気まずいですよね」
「まぁ調べてると思うよ、その位はね」

先輩後輩の気の置けない関係だとわかっているからこそのこの放置プレイなのか。
気が利くというか、なんというか。

「……もしかして俺がサブだっていうのを気にしてるんですかね?」
「多少はそれもあるんじゃないかな。委縮されながらご飯食べられるのも困るだろうし」

ごく普通のサブだとしたら、高収入高家柄のドムなんてもう跪いて足を舐めたくなるレベルの相手だろう。
まぁ、それ以前に社長の言ったように委縮してしまう可能性は高いが。

「随分親切なドムですね」
「ただ偉ぶってるだけじゃ会社の運営になんて携われないからね」
「どんな人なんですか?四宮専務って」
「ここまできてようやくそこが気になるとか綾史もいい性格してるよね」
「え?」

何の話ですか、と。
きょとんと首を傾げたその時だった。

「食事は楽しんでいただけただろうか」

低いテノールの耳に響く声。
カツカツという静かな足音は高級な靴特有の上品さがあり、着ているものもまた、生地からして上等。
そしてその顔は。

「……そのご令嬢、絶対判断ミスしたと思います」

社長より美形なんて、久しぶりに見た。

「後でお前の駄犬に言いつけてやる」と、皿に残っていた最後の一口をフォークで突き刺し、正面に座っていた俺の口に無理やり押し込んだ社長は、そんなことは何もなかったかのような実にスマートな様子でその場から立ち上がり、笑顔で手を挙げた。

「やぁ四宮君。お邪魔しているよ」
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