保護猫subは愛されたい

あうる

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ピロリン

ピロリン

ピロリン

ピロリン…………



電源を入れたとたん、鳴りやまない通知の嵐。
隣の部屋に眠る晶に聞こえぬよう、すぐに音量を消せば、いつまでもぶるぶると震え続けるスマホ。

本人の承諾を得、聞き出したパスコードを入力すれば、そこには画面に納まらないほどの不在通知。

「ーーーそんなことだろうとは思ったがな」

スマホごと叩き壊したくなるような凶悪な思いを押し殺し、気になったものを一件一件確認していく雄吾。
スクロールをするごとに強まる不快感は、予想していたものだとしてもひどく気分が悪い。
そこにあった内容の殆どは、何も言わず辞めていった晶に対して「帰ってきてほしい」という身勝手なもの。
中でも目に付いたのは、何度もしつこく着信を残す女の名前。
晶から直接聞いたわけではないが、恐らくこれが元恋人の名だろう。
残された留守電を無表情に再生すれば、「私が間違っていた」「あなたが一番だった」という謝罪という名の耳障りのいい言葉ばかり。
晶と別れてからまだ数日程度しかたっていないはずだが、あっさり復縁を求めてくるとは、全く都合のいいものだ。
逃がした魚は大きかったと、今頃になって気づいたのだろう。
晶はきっと、自分が大変な状態に置かれるまで、この女に対して誠実に尽くしていたに違いない。
そんな男に慣れきってしまった女が、他の男になど満足できるはずがない。
仕事を辞めたところで、晶ほどの実力ならほかにいくらでも採用したがる企業はあった事だろう。
真面目な晶は結婚相手としては優良株で、一時の損得勘定で捨てるには惜しい相手だったと今更ながら気づいたのか。
Subという晶の性についても、自分が相手をできなければそういった商売の人間に処理を任せればいいとでも簡単に考えたのだろう。
別れてもなお、晶を自らの所有物だと勘違いした愚かな女。

「浅はかな」

そしてそれは、共に仕事をしていたという同僚にとっても同じ。
屋台骨を外された建物が、いつまでもそこに立っていられるわけがない。

晶は頑張りすぎたのだ。
皆が、それを当然のことだと勘違いしてしまうほどに。

残された人材の中に、晶のして来た業務を引き継ぎ、補える人材は存在しなかった。
その事に今更ながらに気づき、あちら側も相当焦っていたのだろう。

「昇進に昇給。そんなもので今更私から晶を奪おうというのか」

耳障りのいい条件ばかり並べて、戻った晶をまた倒れるまでこき使う心積もりなのだろう。
薄汚い欲が透けて見えるような内容ばかりに反吐が出る。

くだらない内容のメールはすべて消去し、留守電もすべて消した。
いずれこのスマホも解約させたほうがいいだろう。
こんなものがなくても、自分がずっとそばにいるのだから何の問題もない。

いずれは晶にも今日持たせたようなタブレット端末を与えるつもりはあるが、それにはまず下準備が必要だ。
知り合いの技術者に依頼し、使用状況を監視するためのアプリを構築させておかなくてはならない。

「素直な晶の事だから、私の目をかいくぐって何かをするとは思えないが…」

雄吾の監視下になく、不用意に晶と外界とを繋げるような不安要素は、できるだけ排除しておきたかった。

我ながら狭量だとは思うが、勝手なことをしているとは全く思わない。
これは晶自身が許可した自分の権利であるし、晶の飼い主として当然の管理。
晶もまた、それを望んだからこそ雄吾の傍にいることを選んだのだから、一体何の問題があるだろうか。

「問題はこの男……か」

雄吾は念のため残しておいたとある複数のメールを自らのスマホに転送し、すぐさま晶のスマホから跡形もなく消去する。

送られてきたメールの中でも、一人だけ毛色の違う内容に、すぐにわかった。
これが、晶を海外へ連れて行こうとした例の男。

『仕事を辞めたと聞いた。今何をしている?迎えに行く。なぜ俺に何も言わなかった。今どこにいる?何か困ったことはないか。元気にしているのか』

なぜ辞めたのかを一切聞かず、ただ晶を心配する文面ばかりが並ぶ内容。

『なぜ連絡をしてくれないんだ。何かトラブルに巻き込まれたのか。頼むから返事をしてくれ』

その内容はだんだんと切迫感を帯び、悲痛なものへと変化していく。

「……厄介だな」

金と頭、その両方を持ち合わせた人間がその気になった時、できないことなどほとんどないことを雄吾は知っていた。

この男は、間違いなく晶を探し出す。

そして、その時男が晶に対して何を言葉にするのか、雄吾には既に大体の予想がついていた。

「今更他のdomの横恋慕など、冗談じゃない」


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★告知★突然ですが新作投稿はじめました!「底なしαの慈郎さんと底抜けβの太郎君」というゆるーいバカップルによる変則的オメガバースのお話です。よろしくお願いします。
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