保護猫subは愛されたい

あうる

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「つまり化け物じみてると言いたいのかしら…?」
「いいえ!そういうわけでは……」

だが、自分の発言を思い返してみればそう取られるのも無理はない。

「正直な意見にケチを付けるのはルール違反だと思いますが?」
「ケチなんてつけてないわ。むしろ感心してるのよ」

姉から庇うように抱きしめるマスター。

「世界で最も美しいと称賛されたその死の瞬間を描いたミレーの絵。いいじゃない、光栄だわ。
『愛しい人にはローズマリーを。思い出よ。どうか私を忘れないで―』」

恍惚とした笑みを浮かべ、オフィーリアが愛する者に向けて最後に口ずさんだというそのセリフを自ら口にする。
満足をしたというのが嘘ではないことは十分わかったが、なぜか腹の底が真底冷えた。


「お気が済んだならもう帰宅したいのですが」
「プレゼントがあると言ったでしょ?こらえ性のない子ね」
首輪カラーのことですか?その話なら……」

そんなものを受け取る理由はない。
当然のごとく不愉快そうな表情で断ろうとするマスター。

「駄目よ。せっかくここまで来たんだもの」

当たり前のように口にし、「困ります」と断固拒否のマスターを相手にもしていない。

「ただの私からの気持ちよ。その子の事も気に入ったわ。
つけるかつけないか自由だけど、選ぶのは雄吾、あなたではなくその子にしてね」
「相手側の気持ちも考えない、迷惑な贈り物もあったものですね」
「大多数の贈り物なんて大抵そんなでしょう。
本当に欲しいものを望むなら、今からでもサンタクロースにお願いしてみたら?」
「結構です。欲しいものは既に手に入っているので」
「そう?あなたにヘンルーダの花を手渡す日が来なければいいわね」
「……随分とハムレットがお気に召したようで」
「そうね、気に入ったわ」

ヘンルーダとはミカン科のハーブの一種であり、ハムレットの劇中でオフィーリアが自らに送るといった花の名だ。
その花言葉は後悔、そして悲しみ。

「あの」
「なにかしら?子猫ちゃん」

軽快な二人の会話になかなか口をはさめない晶だったが、どうしても気になることが一つあった。
マスターの口からきいても構わなかったが、どうせなら本人に確認するべきだろう。
そう、気になるのは純也の事だ。

「麻生純也さんはあなたの息子さん、ですよね」
「ええそうよ?あの子がどうかした?」

あっさりとした肯定。気になるのはここからだ。

「苗字が、麻生なのは何故ですか」
「あぁ、それね」

大したことはないと巴は笑い、「養子に出したのよ」と一言。

「養子……?」
「ええそう。独身女の私生児じゃ、格好がつかないでしょう?
だから、戸籍上あの子は私とは関係のない別の夫婦の子供になっているの」
「!」

驚いた。
父親が分からないとは聞いていたが、格好がつかないから、などという理由で養子に出していたとは。

「姉は関係がないと言っているが、麻生の家は私と姉を施設から引き取った後見人の家でね。
養子とはいっても、どちらかと言えば形だけ後見人になったのとほとんどかわらないんだ」
「あの子は私の子。それは何があっても変わらないんだから、それでいいじゃない」

あくまで父親が誰かを問わないその姿勢には強い意志が垣間見えるが、なぜそこまでするのか。

「姉の囲うSub達はこぞって純也を自らのもとに引き取ろうとしたが、姉はそれを絶対に許さなかった。
そもそも姉には金銭的な援助など全く必要もなかったし、個人資産だけでも、優に億は超えているはずだしね。
そういう意味でも、幼い純也を守るために後見人の存在は必要だったんだ。
勿論、姉のSub達が姉の子である純也を悪いように扱うとは思わなかったが……」

どうせなら、より信頼のおける相手の元に、というのは親として当然の判断だろうと晶も思う。
それにしても億を超える資産をどうやってとは思うが、何しろそこはdomの女王様。

「姉は多彩でね。いろいろな意味で幅広い人脈を使って、自らいくつもの事業を起こしているんだ。
今はもうすっかり全額返し切っているが、私の店の出資金を出してくれたのも姉だったよ。
滋賀君、あの子も元は姉がオーナーを務める水商売のホストの子でね。
強すぎるdom性を持て余している所に姉に出会って、デザイナーとしての才能を見出されたんだ。
他にも、この間紹介した鈴鹿という女性がいただろう?」
「あぁ、縄の…」

忘れようと思ってもなかなか忘れられない、SMの女王様だ。

「彼女も姉を慕う一人でね。彼女の店に最初に出資したのも姉だ。
鈴鹿という名は所謂芸名でね。姉の名にちなんで、彼女自身が名づけた」
「鈴鹿御前と巴御前」

なるほど、そういうことだったのか。
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