保護猫subは愛されたい

あうる

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「ですが巴御前は人、鈴鹿御前は伝承上の天女……ですよね?」

どちらかと言えば鈴鹿御前の方が格上に思える。

「初めは「静」にすると言ったから、私が反対したの。男に捨てられた女の名前なんてあの子には似合わないでしょ?」
「鈴鹿とは、一節には立烏帽子の女盗賊と呼ばれた女傑の名とも言われていますが」
「よく似合ってるじゃない。
子猫ちゃんもそう思うでしょ?」
「はい、確かに」

義経に置き去りにされた白拍子よりは、盗賊の女傑という方が、堂々とした彼女には相応しい名前だと思う。

「ほらね。
やっぱり子猫ちゃんはよくわかってるわ」
「うちの子てすから」

褒められて満更でもないないが、警戒心をとく気には到底ならないということだろう。
晶を抱き締めたマスターの腕は緩まない。

「はいはい、わかったわよ。
時間は取らせないわ。今から持ってくるから少しここで待っていて頂戴」

どこか子供じみた弟の反応に呆れながら、アキラの同意を得たことで満足した巴は、問題のプレゼントとやらを取りに、振り返ることもなく颯爽と部屋を出ていった。


「……自分勝手な姉だろう?」
「素敵な方だと思います」
「本心からそう言ってくれる晶を尊敬するよ」 

確かに強烈な人だとは思うが、最初から徹頭徹尾、subである晶に対しての悪意は感じなかった。
むしろ晶としては「興味深い人だな」というのが正直な認識だ。

「君が思うより遥かに、姉は君に対して好意的だよ。戯曲についても随分詳しかったね?」

そして随分博識なようだ、と。
首筋に赤い跡を残しながらの触れ合いに、くすぐったい思いで軽く首を傾げながら「そうでしょうか?」と笑う晶。

「大学で専攻していたのかい?」
「いえ。一般常識として、知っておかねば話の通じない相手もいるからと言われて……」

日本国内ならまだしも、海外においては独特な言い回しや表現がある事は知っていたので、学んでおくに越したことはないと思い、時間があればともに舞台や絵画を見に行った。
あいにくその知識を披露することは今日のこの日まで来ることはなかったが……。

「そういう事か……」
「マスター?」

納得がいったと、どこか不穏な様子で呟くマスター。

「あの、マスター」
なにか不味いことをいっただろうか。 
黙り込む姿に不安を覚える。
マスター以外の誰かを匂わせる発言を嫌うのはわかっていたが、これはあくまで仕事としての話だ。
マスターが心配するようなことではないと思うが、不興を買ったのが晶の発言であることは、火を見るよりも明らかだ。
思わずコマンドもないままにマスターの前に跪き、許しを請うようにその顔を見上げた。

「大丈夫、怒っているわけではないよ」

よしよしと頭を撫で、自らの膝に晶の頭を乗せるマスター。

「ただ、姉の危惧もあながち杞憂とは呼べないと思い知らされてね。
その彼は、君を連れて海外へ出ようとして、着々と外堀をうめているつもりだったんだろうな」
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