保護猫subは愛されたい

あうる

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番外2  にゃんにゃんにゃん

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「俗にMasterマスターownerオーナーなんて呼ばれることもあるが、日本ではあまり聞かない名称だね」
「マスターとオーナー、ですか」

恐らくではあるが、まんまその通りの意味合い、ということなのだろう。
その口ぶりからすれば、海外発祥の呼び名のようだ。

「そのパートナーはSlave奴隷petペットなんて呼ばれるのが一般的かな。
私達で言うdomとsubのような役割を示すものだが」
「色々あるんですね……」
「晶には未知の世界だろうとは思う。知りたいのならいくらでも教えるが……君には縁のない世界だよ」
「はい…」

自分がsubになってからその手の知識は多少増えたと思っていたが、どうやらそれは単なる入り口でしかなかったらしい。

「飼われたい願望の晶なら、ある意味理想的な相手だったんじゃないかな。domで無いことを除けば、だけどね」

そう言って、ふふと笑うマスターは、最早欠片とて晶の心変わりを心配する様子はない。
そのことが嬉しくて、晶もまた微笑む。

「例え雄吾さんがどのdomでなくとも、私は雄吾さんを選びましたよ」
「奇遇だね。私も例え晶がsubでなくとも一度囲ったら手放さなかった自信があるよ」

外出先では殆ど繋ぎっぱなしの手をぎゅっと握られ、今すぐその足元に跪きたい衝動に駆られた。

「おやおや、随分仲がいいんだねぇ。獨身のオジちゃんは妬けちゃうな~」

トレイに紅茶を2つ載せた男は、一つを雄吾の前に置き、もう一つを何気なく手に取ると、ゴクリとそのまま普通に飲み干してしまった。

「うん、適温。後はお好きにどーぞ」

お好きに?とは。
客用の飲み物にあっさり手をつける行為になんの意味があるのかもよく分からずにいる晶。
雄吾はそんな晶「もっと近く、comeおいで」とコマンドを囁く。
そしてカップを手に取り紅茶を口に含むと、晶を抱き寄せ口移しで飲ませる。

「ん………」

なるほど、人肌ほどの紅茶は確かに適温だ。
ニコニコしながらこちらを見ている男は気になるが、今は自身の主人が一番である。
従順にそれを飲み干し、名残惜しく思いながら唇を離す。 

「お替りならいくらでもあるからね」

どこか微笑ましそうな口ぶりの男だが、今更ながら自己紹介すらされていない状態でこれだ。

「ん?俺の名前?オッチャンはね、榎本 貢えのもとみつぐってゆーしがない飲食店経営者だよ~。はいこれ名刺、後で見てね」

和紙に箔押しされた高級そうな名刺をすっとテーブルに滑らせ、雄吾に渡す。

「あぁ、オッチャンの年齢?今年48よ。これでも大分若作りしてんの」

48歳、とは素直に驚いた。
ぱっと見、マスターと同年代かもっと若いと思っていたので。

「雄吾も40オーバーだったろ?君は30代後半って所かな。肌艶もいいし幸せそうだ。長生きしてくれそうでいいね」

こちらからは口一つ開いていないのに、なんの問題もなく続く会話。
全てを手の内で転がされているようなー。
瞬間的に、ゾクッ……と、背筋に冷たいものが走った。
勿論、何てことのない会話だし、悪意をぶつけられた訳でもない。
それなのに、なんだろう、このーー。

震えそうになる身体を叱咤し、敢えて正面から男ー榎本をじっと見つめ返した晶。

「勇敢な子猫だな。警戒心を剥き出しにしながら外敵から主人を守ろうとしている。
羨ましい、愛されてるなぁ、いいなぁ、お前は」
「できれば誰の目にも触れさせたくないと思うくらいには互いを理解してるよ」
「羨ましい」

はぁ、と晶からの視線を受け流しため息を漏らす榎本。
羨望も顕な様子ながら、どこか怠惰な仕草にも晶は違和感を抱く。
その様子はまるで、羨ましいとは言いながらも、自分ではすでに諦めているような、そんな。

「オッチャンは飼い主のいる子には手を出さない主義だから、そんなに怖がられると傷ついちゃうよ?」
「怖がっているのではなく、理解不能すぎて困惑しているんだけだ」
「いんや、怖がってるね。目の動きが違う。お前もグレアやらコマンドやらに頼らずもっとちゃんと相手を見てあげないと……ね?」

そこで初めて、自分から晶と目を合わせた榎本。
観察ーーある種、domよりも冷静に相手を支配する為の糸口を探すような、油断のない目。  
すべてを丸裸にされるような恐怖。
見られている。
何もかも暴こうと。
そう、この感情は確かな畏怖だ。

顕微鏡で覗かれる虫にでもなった気分、とでも言えばいいだろうか。
そのままブチッと、なんの悪意もなく羽をもぎられそうな冷酷さ。
この人に飼われるというのは、きっと並大抵のことではない。
そしてそれは自分には絶対に無理だと正直に感じた。

「敏感なのは悪いことじゃない。度胸もあるし、飼い主を選ぶ目もある。あぁ、惜しいなぁ。もう少し早く見つけていれば、あるいはーーー」
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