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番外5 にゃんにゃんにゃん
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近づいてみて、人が立ち止まる理由はすぐわかった。
中に、沢山の動物がいる。
犬や猫だけではなく、鳥や爬虫類、うさぎや豚、果ては真ん中にドデンと鎮座する……ペンギン?
「あにまるカフェ……?」
丸っこい字で書かれた看板。
カフェと言うからには飲食も可能なのだろうが、外側から見る限り中に入った人がなにか口にしている様子はない。
むしろ動物園のふれあいコーナーのような様相で、手に持った小さなコップから好みの動物へ餌付けを行っているようだ。
勿論動物によって食べる餌は違う。
よく見れば中には餌の金額表も貼られており、一番高額なのはやはりというか、ペンギンだった。
「カフェ、とは……」
ペットショップか、室内動物園の間違いではないかと思わず首を傾げていれば、くすりと笑った雄吾が、「中に入ればわかるが、飲食スペースも一応あるんだ。ガラスで区切られていて、そこからでも動物を眺めることができる」と、躊躇う晶の手を引き当然のように店の扉を開けた。
「いらっしゃいませー!」
元気のいい若い女性の声。
店の中もやはり、スマホを手にした若者で一杯だ。
しかし雄吾の言う通り、こちらには動物はおらず、みな反対側に大きく作られたガラス窓にスマホを向けている。
路地からは客の飲食スペースは見えず、あちら側だけが覗ける仕組みに成っていたわけだ。
なるほど、客引きには十分すぎる効果だ。
「いらっしゃいませ~!当店のご利用は初めてですか?」
接客のためにこちらにやってきた女性店員か、型通りの台詞を口する。
晶自身は初めて来る店だが、雄吾はどうなのだろうか。
そして接客に来てくれた店員なのだが、なぜだろうか。
その顔に、妙な既視感を覚えた。
知り合いでないことは確かだが、どこかで見た顔のような……。
考え込んでいた晶がふとその答えにたどり着くのと、店員が「あ!」と大きく声を上げたのはほぼ同時だった。
「マスター!お久しぶりです~!あ、今日はもしや、オーナーのところへ行った帰りですか?」
「この顔………」
見覚えがあるのは当然だ。
雰囲気が随分違っていたので分からなかったが、つい先程見た顔である。
複数の被写体の写された写真の中で、拡大されたポートレートとして一際目立つ位置に飾られていた女性だ。
もしや雄吾は、彼女に合わせるためにここへ連れてきたのだろうか。
「お連れ様はもしかして噂のお猫様ですか!?同伴ありがとうございます!奥の席2名様ご案内でーす!」
後ろに新しい客が控えていたこともあってか、それ以上の会話を切り上げた彼女に案内され、まるで特等席のような、一番奥の壁際の席へ通された。
背後に衝立も置かれているため、まるで個室のようになっているその場所に腰を落ちつけると、「また後できますね!」と慌ただしく背中を向け、新しい客の元へと向かっていく。
「晶、お腹は空いていないか?」
マスターの声にテーブルに置かれたメニューへ目を向ければ、書かれていたのはABCの3つのセットだけというシンプル仕様。
簡単な軽食+飲み物がそれぞれいくつかの選択肢から選べるようになっており、それにプラスして隣のアニマルルームを何分使用するかで料金が変わってくるようだ。
Aは15分、Bは30分間、Cは1時間といった具合で、混雑時にはAコースのみとなる場合もありますと、注意書きされている。
「あの、雄吾さ……」
「お待たせしましたー!!あ、これ私からのサービスで紅茶ワンポット持ってきたので、よかったらどうぞ!」
口を開こうとした晶に先んじ、すぐに戻ってきた彼女は、いつの間に用意したのか、トレイに紅茶一式を載せ、何も注文するまでもなくセッティングを始めた。
それを終えたところでようやく二人に向き直り、にっこりと微笑む。
「はじめましてお猫様~、私この店の雇われ店長のメイです。
マスターとはうちのオーナーを通じての趣味つながり、って感じですかね」
雄吾の店以外で猫と呼ばれるのも珍しいが、ただの店員だと思っていた人物が店長だったことにも驚いた。
気軽に声をかけてくれる快活な様子からは、また20代そこそこのように見えたのだが。
そして、先程から気になるオーナーという台詞。
何かを言いたげな晶に気づいた雄吾は、ここでようやく種明かしをする気になってくれたようだ。
「急に連れてきて驚かせたね。晶のことだから既に予想はできただろうが、この店のオーナーは先程のカフェと同じ榎本だ」
「私以外にも、例の写真に写ってた子はいますよ~。みんなオーナーの紹介でここに流れてきた子ばっかりなんで」
ふふふ、と愛らしく笑う女性は、制服であろうエプロン姿と相まってどこか少女めいた容貌だが、先程見た写真の中ではその姿は全く違った。
赤と黒で彩られた、そこはかとなく退廃的で淫靡な世界ーー。
縄化粧を施された被写体達が、艶やかで妖しく輝く。
先程榎本の言っていた、そう確か。
「ロープバニー?」
「の、一人です」
口元に指を当て、「他のお客様にはご内密にお願いします」と、どこか楽しげに囁く。
「ついでに言うと、あの写真を取ったのは私の旦那様兼、プレイパートナーなんですよ。
今は一人で海外に撮影に行っちゃいましたけど」
中に、沢山の動物がいる。
犬や猫だけではなく、鳥や爬虫類、うさぎや豚、果ては真ん中にドデンと鎮座する……ペンギン?
「あにまるカフェ……?」
丸っこい字で書かれた看板。
カフェと言うからには飲食も可能なのだろうが、外側から見る限り中に入った人がなにか口にしている様子はない。
むしろ動物園のふれあいコーナーのような様相で、手に持った小さなコップから好みの動物へ餌付けを行っているようだ。
勿論動物によって食べる餌は違う。
よく見れば中には餌の金額表も貼られており、一番高額なのはやはりというか、ペンギンだった。
「カフェ、とは……」
ペットショップか、室内動物園の間違いではないかと思わず首を傾げていれば、くすりと笑った雄吾が、「中に入ればわかるが、飲食スペースも一応あるんだ。ガラスで区切られていて、そこからでも動物を眺めることができる」と、躊躇う晶の手を引き当然のように店の扉を開けた。
「いらっしゃいませー!」
元気のいい若い女性の声。
店の中もやはり、スマホを手にした若者で一杯だ。
しかし雄吾の言う通り、こちらには動物はおらず、みな反対側に大きく作られたガラス窓にスマホを向けている。
路地からは客の飲食スペースは見えず、あちら側だけが覗ける仕組みに成っていたわけだ。
なるほど、客引きには十分すぎる効果だ。
「いらっしゃいませ~!当店のご利用は初めてですか?」
接客のためにこちらにやってきた女性店員か、型通りの台詞を口する。
晶自身は初めて来る店だが、雄吾はどうなのだろうか。
そして接客に来てくれた店員なのだが、なぜだろうか。
その顔に、妙な既視感を覚えた。
知り合いでないことは確かだが、どこかで見た顔のような……。
考え込んでいた晶がふとその答えにたどり着くのと、店員が「あ!」と大きく声を上げたのはほぼ同時だった。
「マスター!お久しぶりです~!あ、今日はもしや、オーナーのところへ行った帰りですか?」
「この顔………」
見覚えがあるのは当然だ。
雰囲気が随分違っていたので分からなかったが、つい先程見た顔である。
複数の被写体の写された写真の中で、拡大されたポートレートとして一際目立つ位置に飾られていた女性だ。
もしや雄吾は、彼女に合わせるためにここへ連れてきたのだろうか。
「お連れ様はもしかして噂のお猫様ですか!?同伴ありがとうございます!奥の席2名様ご案内でーす!」
後ろに新しい客が控えていたこともあってか、それ以上の会話を切り上げた彼女に案内され、まるで特等席のような、一番奥の壁際の席へ通された。
背後に衝立も置かれているため、まるで個室のようになっているその場所に腰を落ちつけると、「また後できますね!」と慌ただしく背中を向け、新しい客の元へと向かっていく。
「晶、お腹は空いていないか?」
マスターの声にテーブルに置かれたメニューへ目を向ければ、書かれていたのはABCの3つのセットだけというシンプル仕様。
簡単な軽食+飲み物がそれぞれいくつかの選択肢から選べるようになっており、それにプラスして隣のアニマルルームを何分使用するかで料金が変わってくるようだ。
Aは15分、Bは30分間、Cは1時間といった具合で、混雑時にはAコースのみとなる場合もありますと、注意書きされている。
「あの、雄吾さ……」
「お待たせしましたー!!あ、これ私からのサービスで紅茶ワンポット持ってきたので、よかったらどうぞ!」
口を開こうとした晶に先んじ、すぐに戻ってきた彼女は、いつの間に用意したのか、トレイに紅茶一式を載せ、何も注文するまでもなくセッティングを始めた。
それを終えたところでようやく二人に向き直り、にっこりと微笑む。
「はじめましてお猫様~、私この店の雇われ店長のメイです。
マスターとはうちのオーナーを通じての趣味つながり、って感じですかね」
雄吾の店以外で猫と呼ばれるのも珍しいが、ただの店員だと思っていた人物が店長だったことにも驚いた。
気軽に声をかけてくれる快活な様子からは、また20代そこそこのように見えたのだが。
そして、先程から気になるオーナーという台詞。
何かを言いたげな晶に気づいた雄吾は、ここでようやく種明かしをする気になってくれたようだ。
「急に連れてきて驚かせたね。晶のことだから既に予想はできただろうが、この店のオーナーは先程のカフェと同じ榎本だ」
「私以外にも、例の写真に写ってた子はいますよ~。みんなオーナーの紹介でここに流れてきた子ばっかりなんで」
ふふふ、と愛らしく笑う女性は、制服であろうエプロン姿と相まってどこか少女めいた容貌だが、先程見た写真の中ではその姿は全く違った。
赤と黒で彩られた、そこはかとなく退廃的で淫靡な世界ーー。
縄化粧を施された被写体達が、艶やかで妖しく輝く。
先程榎本の言っていた、そう確か。
「ロープバニー?」
「の、一人です」
口元に指を当て、「他のお客様にはご内密にお願いします」と、どこか楽しげに囁く。
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今は一人で海外に撮影に行っちゃいましたけど」
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