アオバと

neko12

文字の大きさ
2 / 7

きたよ!

しおりを挟む
青葉は、大聖堂の一室で膝を抱えていた。

 召喚されてから三日。
 異世界の言葉も少しずつ分かってきたけれど、やはり現実感はない。
 彼女を囲むのは神官や騎士たち。みな一様に「聖女様」と呼び、笑顔を見せる。でもその奥に、何かを押しつけようとする圧を感じていた。

 「魔王の瘴気を祓っていただければ、戦局は有利になります」
 「国王陛下も、聖女の祝福を心待ちに──」
 「精霊様も、貴女を選ばれたのです。誇りに思ってください」

 「……もう、むり……モモナ……」

 そう呟いた瞬間、心が軋んだ。

 あの子は、18年も生きて、最後に私の腕の中で静かに目を閉じた。
 賢くて、クールで、でもほんとは誰より優しかった。
 「モモナ」って呼ぶと、そっと横に来て、スリスリしてくれた。

 そのときだった。

 ドォォン!

 遠くで爆発音。続いて、騎士たちの怒号と、衛兵の笛。

 「何者かが、大聖堂の屋根に侵入しました!」



 一方その頃──屋根の上。

 茶トラの髪と猫耳、金の瞳を持つ少女──モモナは、神殿の尖塔の上で風を感じていた。

 「……ここ。絶対ここにいる。青葉のにおいがする」

 嗅覚はまだ健在だった。むしろ人間の言葉が話せる分、いろんな感情がはっきりわかる。

 (泣いてる……青葉、やっぱり泣いてる!)

 モモナは跳んだ。衛兵たちが気づいて騒ぎ出すも、気にしない。

 ただ一つの願いのために。



 そして──

 バァン!

 部屋の窓が割れて、風が巻き込んだ。

 青葉は驚いて顔を上げた。

 そこに立っていたのは、
 猫耳の、獣人の、美しい少女。

 でも、その金の瞳を見た瞬間、彼女は確信した。

 「……モモナ?」

 「あぴちゃん!」

 駆け寄って、だきしめる。モモナは尻尾をフリフリして、青葉の頬に顔をスリスリした。

 「よかった~! 生きてた! 元気じゃなさそうだったけど……でも、生きてて、会えて……にゃあああん……!」

 涙ぐむモモナを、青葉もぎゅっと抱きしめ返す。

 「夢じゃないよね……モモナ……会いに来てくれたんだね……」

 「青葉が泣いてたら、わたしがぜったい助けに来る!」



 外では騎士たちが騒いでいたが、モモナはくるっと振り返り、堂々と宣言した。

 「青葉にこれ以上むりさせたら、あんたたちのこと許さないから!」

 その目が光ると、神殿の魔除けが一瞬で吹き飛んだ。
 モモナの力は、“神獣の加護”などという生やさしいものではない。

 青葉を泣かせた奴らは、全員許さない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームは始まらない

まる
ファンタジー
きっとターゲットが王族、高位貴族なら物語ははじまらないのではないのかなと。 基本的にヒロインの子が心の中の独り言を垂れ流してるかんじで言葉使いは乱れていますのでご注意ください。 世界観もなにもふんわりふわふわですのである程度はそういうものとして軽く流しながら読んでいただければ良いなと。 ちょっとだめだなと感じたらそっと閉じてくださいませm(_ _)m

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...