アオバと

neko12

文字の大きさ
3 / 7

聖女の代わりに

しおりを挟む
王都に激震が走ったのは、青葉のもとへ“獣人の少女”が突入してから五分後のことだった。

 大聖堂の結界が砕け、警備魔法陣がすべて無力化。
 そして、「聖女の部屋」を占拠したモモナは、誰の指示も許さず、青葉の傍から一歩も離れなかった。



 「……この子はもう、“聖女”じゃない。体も、心も限界だった」

 騎士団長の問いかけに、モモナは感情のない声でそう告げた。

 「代わりは私がする。しばらく、“聖女代理”として動く。文句はある?」

 神官たちは沈黙し、騎士団は目を見開いた。
 青葉本人は唖然として、モモナの袖を引いた。

 「モモナ……どうして……私、役立たずだったのに……」

 「泣いてた。だから、私が代わる。あぴちゃんは寝てていい」

 短く、静かな言葉。だけどそこには、18年分の愛情と信頼が詰まっていた。



 翌朝。

 魔物の群れが城下に迫るという報告が届く。

 神殿側は騎士団を出そうとしたが、モモナは一言だけ告げて、単身フィールドに降りた。

 「大丈夫。私一人で片づける」

 草原の向こう、20体以上の魔物たちが咆哮を上げる。
 元・猫とは思えない俊敏な身のこなしで、モモナは敵陣へ踏み込んだ。

 剣は持たない。魔法も唱えない。

 ただ、“動き”だけで終わらせた。

 鋭い爪と、超速の脚。急所を正確に貫き、敵は1分以内に殲滅された。



 神殿に戻ったモモナは、報告もせず青葉の部屋に入る。

 彼女は静かに、ベッドで眠る青葉の髪を撫でた。

 「全部、私がやるから。もう、無理しなくていい」

 そう呟いた瞳は、どこまでも冷たく、そして深い優しさを湛えていた。



 一方、王宮ではささやき声が飛び交う。

 「……あの獣人、何者だ」
 「聖女を守るふりをして、実は国家転覆を狙っているのでは……?」

 だが一人の将軍だけが、ぽつりと呟いた。

 「いや、あれは違う。あの目は……“飼い主を守る獣の目”だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームは始まらない

まる
ファンタジー
きっとターゲットが王族、高位貴族なら物語ははじまらないのではないのかなと。 基本的にヒロインの子が心の中の独り言を垂れ流してるかんじで言葉使いは乱れていますのでご注意ください。 世界観もなにもふんわりふわふわですのである程度はそういうものとして軽く流しながら読んでいただければ良いなと。 ちょっとだめだなと感じたらそっと閉じてくださいませm(_ _)m

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...