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開放
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夜の王都は、静かで穏やかだった。
だけど私の心には、ずっとざわつきがあった。
「モモナ、今日……ずっと遠くを見てたね」
「感じた。遠くで、こっちを見てる目。おそらく、魔王の眷属」
ベッドに座る私の足元で、モモナがソファに腰掛けて窓の外を見ていた。
茶色と黒に近い毛並みは、前世では雉トラと呼ばれていた毛色だ。胸元は真っ白で美しい
だけど今のモモナは、鋭く、しなやかで、どこか冷たい。
それでも、たまにこちらに目を向けると、私は安心してしまう。
この目を、何年も見てきたから。
⸻
その夜は、突然だった。
爆音もなく、ただ風が止まった。
窓がひとりでに開き、炎も光もないのに、部屋の空気が重くなる。
「青葉、伏せて」
モモナの声と同時に、黒い霧が床を這って侵入してきた。
そこにいたのは、仮面をつけた人型の何か。
だけど人間じゃない。目が合った瞬間、私は体の芯が凍りついた。
「聖女。魔王様が、お呼びです」
「呼ばれても、行かせない」
モモナが前に立つ。獣人の姿で、爪を出し、尻尾が警戒の揺れを見せる。
「私のアピちゃ──青葉に、指一本、触れさせない」
その声に、仮面の男が口元を歪める。
「獣の分際で」
次の瞬間、空間が歪んだ。
魔力衝撃。モモナが弾き飛ばされた。
⸻
「モモナッ!!」
私は無意識に走り寄っていた。
体のどこかが叫んでいた。守りたいと。
でも私には、剣も魔法もない。ただ、モモナを撫でる手しかない。
でも──その手が、光った。
「なっ……」
魔王の使徒が、後退る。
私の手から、温かい金色の光が広がっていく。
包むように、優しく、だけど確かに。
「この力……癒し……再生……いや、“共鳴”か」
モモナの体に触れた瞬間、彼女の金の瞳が強く光った。
次の瞬間──彼女の力が、変わった。
空気が爆ぜ、重力が歪む。仮面の使徒が、逃げの構えに入った。
「間違いない。この力、青葉の……!」
「私の“鍵尻尾”に触れられるのは、青葉だけだ」
その声は冷たいのに、どこか誇らしげだった。
モモナの尻尾の先──カギ状になった部分から、金の軌跡が走る。
それはまるで、封印された扉を開く“鍵”のようだった。
⸻
結果は、一撃だった。
モモナの爪が仮面の使徒を貫き、霧が晴れる。
残されたのは、微かな灰と、風の音だけ。
⸻
静まり返った部屋で、私はそっとモモナの顔を覗き込んだ。
「……ごめん、勝手に触った」
「いい。むしろ、もっと触って。目の上から、頭まで、撫でて」
「うん」
私はそっと手をのばして、彼女の目元から額を撫でた。
雉トラだったころと、変わらない感触。
でも今のモモナは、もっと強くて、もっと遠くを見てる。
それでも変わらない。
私は、モモナが撫でられると少しだけ嬉しそうに目を細めるこの瞬間が、何より好きだった。
だけど私の心には、ずっとざわつきがあった。
「モモナ、今日……ずっと遠くを見てたね」
「感じた。遠くで、こっちを見てる目。おそらく、魔王の眷属」
ベッドに座る私の足元で、モモナがソファに腰掛けて窓の外を見ていた。
茶色と黒に近い毛並みは、前世では雉トラと呼ばれていた毛色だ。胸元は真っ白で美しい
だけど今のモモナは、鋭く、しなやかで、どこか冷たい。
それでも、たまにこちらに目を向けると、私は安心してしまう。
この目を、何年も見てきたから。
⸻
その夜は、突然だった。
爆音もなく、ただ風が止まった。
窓がひとりでに開き、炎も光もないのに、部屋の空気が重くなる。
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そこにいたのは、仮面をつけた人型の何か。
だけど人間じゃない。目が合った瞬間、私は体の芯が凍りついた。
「聖女。魔王様が、お呼びです」
「呼ばれても、行かせない」
モモナが前に立つ。獣人の姿で、爪を出し、尻尾が警戒の揺れを見せる。
「私のアピちゃ──青葉に、指一本、触れさせない」
その声に、仮面の男が口元を歪める。
「獣の分際で」
次の瞬間、空間が歪んだ。
魔力衝撃。モモナが弾き飛ばされた。
⸻
「モモナッ!!」
私は無意識に走り寄っていた。
体のどこかが叫んでいた。守りたいと。
でも私には、剣も魔法もない。ただ、モモナを撫でる手しかない。
でも──その手が、光った。
「なっ……」
魔王の使徒が、後退る。
私の手から、温かい金色の光が広がっていく。
包むように、優しく、だけど確かに。
「この力……癒し……再生……いや、“共鳴”か」
モモナの体に触れた瞬間、彼女の金の瞳が強く光った。
次の瞬間──彼女の力が、変わった。
空気が爆ぜ、重力が歪む。仮面の使徒が、逃げの構えに入った。
「間違いない。この力、青葉の……!」
「私の“鍵尻尾”に触れられるのは、青葉だけだ」
その声は冷たいのに、どこか誇らしげだった。
モモナの尻尾の先──カギ状になった部分から、金の軌跡が走る。
それはまるで、封印された扉を開く“鍵”のようだった。
⸻
結果は、一撃だった。
モモナの爪が仮面の使徒を貫き、霧が晴れる。
残されたのは、微かな灰と、風の音だけ。
⸻
静まり返った部屋で、私はそっとモモナの顔を覗き込んだ。
「……ごめん、勝手に触った」
「いい。むしろ、もっと触って。目の上から、頭まで、撫でて」
「うん」
私はそっと手をのばして、彼女の目元から額を撫でた。
雉トラだったころと、変わらない感触。
でも今のモモナは、もっと強くて、もっと遠くを見てる。
それでも変わらない。
私は、モモナが撫でられると少しだけ嬉しそうに目を細めるこの瞬間が、何より好きだった。
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