アオバと

neko12

文字の大きさ
6 / 7

鍵尻尾の記憶

しおりを挟む
 あの戦いの夜から、私は変わった気がしていた。

 手をかざすと、微かに暖かい光が滲む。
 モモナに触れると、彼女の力が明らかに増していく。

 「これは、私の力……? でも、どうして今まで気づかなかったの……?」

 モモナは黙っていたけれど、私にはわかった。
 彼女は気づいていた。ずっと前から。



 「昔から、不思議だったんだ」

 私はモモナの尻尾をそっと包んだ。

 カギ状にくるんと曲がった、その先端。

 「この“鍵尻尾”に触れると、いつも気持ちが落ち着いた。悲しいとき、苦しいとき、何も言わずに寄り添ってくれて……」

 「鍵だったんだ。アピちゃんの心を守る鍵」

 モモナがそう言ったとき、部屋に光が溢れた。

 私の手から、彼女の尻尾から、柔らかく、深く、あたたかい光が。

 そして──記憶が蘇る。



 私の幼い頃、よく学校が嫌で泣いていた。
お母さんに叱られた時も、間に入って庇ってくれていた。

 胸元が真っ白で、ふわふわで、
 ぺろりと舌を出す癖のあるあの子。

 「モモナ……ずっと、見守ってくれてたんだね」

 「ずっと、そばにいた。死んでも、アピちゃんのことが忘れられなかった。だからここに来た」

 「モモナ……ありがとう」

 私は、彼女の頭をそっと撫でた。目元から額まで、ゆっくりと。

 モモナは、少しだけ目を細めた。
 昔と同じ、満ち足りた表情で。



 そのときだった。

 部屋の空気が震え、天井に魔法陣が浮かぶ。

 「……また来たか」

 モモナが立ち上がる。

 でも、今回は違った。
 私の手が、自然とモモナの背中へと伸びる。

 「モモナ、行こう。一緒に」

 「……いいの?」

 「私の力は“癒し”じゃない。あなたの力を、完全に引き出す“鍵”なんだ」

 次の瞬間、私たちの体が金色に包まれる。

 モモナの姿が、淡い光とともに変わっていく。
 雉トラの紋が肩に浮かび、白い胸元の印が輝いた。

 ──これは、ただの転生じゃない。
 魂ごと、生まれ変わったんだ。



 外では、魔王の使徒たちが王都に向けて進軍していた。

 でももう恐れない。
 私は一人じゃない。
 そして、モモナはただの獣人じゃない。

 “鍵尻尾”が導く絆は、二つの命を繋いだ、真実の力だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームは始まらない

まる
ファンタジー
きっとターゲットが王族、高位貴族なら物語ははじまらないのではないのかなと。 基本的にヒロインの子が心の中の独り言を垂れ流してるかんじで言葉使いは乱れていますのでご注意ください。 世界観もなにもふんわりふわふわですのである程度はそういうものとして軽く流しながら読んでいただければ良いなと。 ちょっとだめだなと感じたらそっと閉じてくださいませm(_ _)m

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...