マジメ御曹司を腐の沼に引き摺り込んだつもりが恋に堕ちていました

田沢みん

文字の大きさ
10 / 56

9、イタシテイナイ……だとっ?!

しおりを挟む

「ちょっと待ってクダサイ。シャワーを浴びたいノデ」

 ヨーコの手を引いて寝室に入った透に待ったをかけると、クローゼットからバスローブを取り出してバスルームに向かう。

ーードウシマショウ! 今頃ドキドキしてきまシタ!

 これが初めてなわけではない。初体験は同じ相手と昨夜済ませているのだ。

 だけど泥酔していて殆ど記憶が無かったヨーコにとって、今日が初体験のようなもの。
 しかも今日は素面しらふの状態。お酒の勢いを借りるわけでも、一夜の過ちでも無い。こんなの緊張しないわけがない。


 初夜を迎えるような気持ちでいつも以上に時間をかけて全身くまなく洗うと、バスローブ一枚だけに身を包み、「うん」と覚悟を決めて寝室に向かった。

「良かったらトオルさんもシャワーを使ってクダサイな」

 ベッドに腰掛けていた透に声を掛けると、彼は弾かれたように立ち上がり、何故かそのまま床に正座した。

「ごめんなさい!」

 ベージュのカーペットに額をつけて、おもむろに謝られる。所謂いわゆるジャパニーズ土下座というやつだ。

「トオルさん、どうしたのデスカ?」

 謝られる心当たりが無いので戸惑っていると、床に両手をついたまま顔を上げた透から、衝撃の発言が飛び出した。

「ごめん……俺とヨーコさんは……まだ完全に結ばれていないんだ」
「えっ?」

 セックスに完全とか不完全とかあるものなのか?

 いや……ある!

ーーまさか!!!

「もしかして……イタシテイナイ……のデスカ?」
「はい……致してない…です」

ーーガーーン!

 無事に貫通式を済ませていたと思ったら、まさかの未遂だったとは……。


「本当に申し訳ない。最初は騙すつもりなんて無かったんだ。だけど、朝起きて、あなたが勘違いしていて、本当に何も覚えていないんだって思ったら……魔が差した」

 責任を取ると言えば、一気に結婚に持ち込んでしまえると考えたのだ。

「浅はかだったって、今なら良く分かる。俺たちの大事な初めてを、そんな嘘で汚していいはずがないのに……あの時は、どうにかしてあなたを捕まえたくて、目の前のチャンスに飛びついてしまったんだ」


 透によると、あの夜は途中でビビって止めてしまったのだという。

「痛いって言われて……」

 指1本まではまだ良かった。
 キスと胸への愛撫だけで濡れていたし、更に透の舌で直接刺激して存分にイかせる事も出来た。

 その時にはヨーコは酔いと絶頂の余韻で殆ど朦朧としていて、喘ぎ声以外出さなくなっていた。

 指を1本入れた。達したばかりのソコはグチョグチョに濡れていて、うごめきながら透の人指し指をヌルリと呑み込んでいく。

 思っていたよりも狭くてキツかった。ゆっくり掻き回して抜き差ししてみたら、ヨーコは顔をしかめながらも、「は……っ」と吐息を漏らしてされるがままになっていた。
 半分意識が飛んでいたんだろう。

 色っぽい表情と声に興奮した。早く挿れたくて堪らない。
 調子に乗って、指を2本に増やしてみた。
 中指と人差し指を揃えてグッと押し込んだ時……

「Ouch! It’s killing me! (痛い、やめて)」

 突然英語で叫ばれて、バッと指を引き抜いた。

「嫌だ……怖い……初めてなの……」

「私はそんなんじゃない……」

「酷い……初めてなのに……こんなの嫌…」

 英語でうわ言のように呟いて、そのまま眠ってしまった。
 閉じた睫毛が濡れていた。頬を伝う涙をそっと拭いながら、透は考えた。

 さっきまであんなに気持ち良さそうに感じてくれていたのに、何が駄目だったんだろう。
 やはり経験不足が露呈してしまったのか。

 それよりも……。

「彼女は処女だったのか?」

 美しい人だからモテるに違いない。当然経験済みだと思っていた。
 まだ誰のものにもなっていなかった。
 嬉しい、感動だ、震える。

 その反面、彼女を満足させられなかった事、痛がらせてしまった事、酔った勢いで最後までシようとした事が悔やまれる。
 第一、避妊具も持っていないじゃないか。

ーーこんな形で彼女の処女を奪っていいはずがない。

 ヨーコさんの大事な初めては……ちゃんと愛の告白をして、身も心も受け入れて貰ってからだ。




「……それで昨日の夜は一晩かけて女性の誘い方とセックスのテクニックについて勉強した。文章でも、動画でも。実は今日、ここに来る前に一旦自分のアパートに帰ってシャワーを浴びて来た。途中で避妊具も買って来た。どれがいいか分からなかったから3種類ある」

 急に立ち上がると、持って来ていたカバンから、避妊具3箱と歯磨きセットと新しい下着を取り出して見せる。

「……ヤル気満々だったのですね」
「……満々だった」

「昨日は寝ていないのデスカ?」
「寝ていない。だけど頭は冴えてるし、昨夜学んだ事は全部頭にインプットされている」

「私が断る可能性は考えなかったのデスカ?」
「もちろん考えた……けど、今日がダメならまた明日も押し掛けるつもりだったから……」

「フフッ、トオルはお馬鹿さんデスネ」
「自分でも、必死すぎてダサいな……とは思う。あっ、透呼び、嬉しいです」

 とにかく諦めたくないから……と見つめられ、思わず笑いが溢れた。

 透は真剣だ。必死で真面目で馬鹿正直で、賢いのにお馬鹿さんだ。


「俺は1年前からヨーコが好きで諦められなくて、酔った勢いで想いを遂げようとして失敗した馬鹿野郎。これで秘密は全部話した」

「もう隠し事はナイのデスカ?」

「無い。それでもヨーコが許してくれるなら……今から本当にヨーコの初めてを貰いたい。ついでに言うなら俺の童貞も貰って欲しい」

 そうか、処女喪失未遂の衝撃で聞き逃していたけれど、彼はさっきから『俺たちの初めて』とか『経験不足』とか『テクニックを勉強した』とか聞き捨てならない言葉を並べていたではないか。

「トオルはドーテーなのデスカ?」
「うん……ごめん」

「ゴメンじゃないデスヨ。話してくれて嬉しいデス」

 彼が正直に全て話してくれたんだ。こちらも全て曝け出すべきだろう。

 それに昨夜の失敗を彼のテクニック不足のせいだと勘違いさせたままでは可哀想だ。


「トオルさん、それでは次に、私の話を聞いてくれマスカ? 今まで処女だった理由デス」

 誰にも話した事が無かった過去のトラウマを、この人になら聞いてもらいたいな……と、自然にそう思えたのだ。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お前、頬を叩いた詫びに婚約者になれ」 上司で社長の彪夏と秘書の清子はお似合いのふたりだと社内でも評判。 御曹司でイケメンの彪夏は女子の憧れの的。 清子はどこぞのご令嬢と噂され、男女問わず視線を集めていた。 ……しかし。 清子には誰もが知らない、秘密があったのです――。 それは。 大家族のド貧乏! 上は高校生、下は生まれたばかりの五人弟妹。 おっとりして頼りにならない義母。 そして父は常に行方不明。 そんな家族を支えるべく、奮闘している清子ですが。 とうとう、彪夏に貧乏がバレたまではよかったけれど。 子持ちと間違われてついひっぱたいてしまい、償いに婚約者のフリをする羽目に。 しかも貧乏バラすと言われたら断れない。 どうなる、清子!? 河守清子 かわもりさやこ 25歳 LCCチェリーエアライン 社長付秘書 清楚なお嬢様風な見た目 会社でもそんな感じで振る舞っている 努力家で頑張り屋 自分がしっかりしないといけないと常に気を張っている 甘えベタ × 御子神彪夏 みこがみひゅうが 33歳 LCCチェリーエアライン 社長 日本二大航空会社桜花航空社長の息子 軽くパーマをかけた掻き上げビジネスショート 黒メタルツーポイント眼鏡 細身のイケメン 物腰が柔らかく好青年 実際は俺様 気に入った人間はとにかくかまい倒す 清子はいつまで、貧乏を隠し通せるのか!? ※河守家※ 父 祥平 放浪の画家。ほぼ家にいない 母 真由 のんびり屋 長男 健太(高一・16歳)服作りが趣味 次男 巧(高一・15歳)弁護士になるのが目標 三男 真(小五・10歳)サッカー少年 四男 望(保育園年中・5歳)飛行機大好き 次女 美妃(保育園児・五ヶ月)未知数

処理中です...