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9、イタシテイナイ……だとっ?!
しおりを挟む「ちょっと待ってクダサイ。シャワーを浴びたいノデ」
ヨーコの手を引いて寝室に入った透に待ったをかけると、クローゼットからバスローブを取り出してバスルームに向かう。
ーードウシマショウ! 今頃ドキドキしてきまシタ!
これが初めてなわけではない。初体験は同じ相手と昨夜済ませているのだ。
だけど泥酔していて殆ど記憶が無かったヨーコにとって、今日が初体験のようなもの。
しかも今日は素面の状態。お酒の勢いを借りるわけでも、一夜の過ちでも無い。こんなの緊張しないわけがない。
初夜を迎えるような気持ちでいつも以上に時間をかけて全身くまなく洗うと、バスローブ一枚だけに身を包み、「うん」と覚悟を決めて寝室に向かった。
「良かったらトオルさんもシャワーを使ってクダサイな」
ベッドに腰掛けていた透に声を掛けると、彼は弾かれたように立ち上がり、何故かそのまま床に正座した。
「ごめんなさい!」
ベージュのカーペットに額をつけて、おもむろに謝られる。所謂ジャパニーズ土下座というやつだ。
「トオルさん、どうしたのデスカ?」
謝られる心当たりが無いので戸惑っていると、床に両手をついたまま顔を上げた透から、衝撃の発言が飛び出した。
「ごめん……俺とヨーコさんは……まだ完全に結ばれていないんだ」
「えっ?」
セックスに完全とか不完全とかあるものなのか?
いや……ある!
ーーまさか!!!
「もしかして……イタシテイナイ……のデスカ?」
「はい……致してない…です」
ーーガーーン!
無事に貫通式を済ませていたと思ったら、まさかの未遂だったとは……。
「本当に申し訳ない。最初は騙すつもりなんて無かったんだ。だけど、朝起きて、あなたが勘違いしていて、本当に何も覚えていないんだって思ったら……魔が差した」
責任を取ると言えば、一気に結婚に持ち込んでしまえると考えたのだ。
「浅はかだったって、今なら良く分かる。俺たちの大事な初めてを、そんな嘘で汚していいはずがないのに……あの時は、どうにかしてあなたを捕まえたくて、目の前のチャンスに飛びついてしまったんだ」
透によると、あの夜は途中でビビって止めてしまったのだという。
「痛いって言われて……」
指1本まではまだ良かった。
キスと胸への愛撫だけで濡れていたし、更に透の舌で直接刺激して存分にイかせる事も出来た。
その時にはヨーコは酔いと絶頂の余韻で殆ど朦朧としていて、喘ぎ声以外出さなくなっていた。
指を1本入れた。達したばかりのソコはグチョグチョに濡れていて、蠢きながら透の人指し指をヌルリと呑み込んでいく。
思っていたよりも狭くてキツかった。ゆっくり掻き回して抜き差ししてみたら、ヨーコは顔を顰めながらも、「は……っ」と吐息を漏らしてされるがままになっていた。
半分意識が飛んでいたんだろう。
色っぽい表情と声に興奮した。早く挿れたくて堪らない。
調子に乗って、指を2本に増やしてみた。
中指と人差し指を揃えてグッと押し込んだ時……
「Ouch! It’s killing me! (痛い、やめて)」
突然英語で叫ばれて、バッと指を引き抜いた。
「嫌だ……怖い……初めてなの……」
「私はそんなんじゃない……」
「酷い……初めてなのに……こんなの嫌…」
英語でうわ言のように呟いて、そのまま眠ってしまった。
閉じた睫毛が濡れていた。頬を伝う涙をそっと拭いながら、透は考えた。
さっきまであんなに気持ち良さそうに感じてくれていたのに、何が駄目だったんだろう。
やはり経験不足が露呈してしまったのか。
それよりも……。
「彼女は処女だったのか?」
美しい人だからモテるに違いない。当然経験済みだと思っていた。
まだ誰のものにもなっていなかった。
嬉しい、感動だ、震える。
その反面、彼女を満足させられなかった事、痛がらせてしまった事、酔った勢いで最後までシようとした事が悔やまれる。
第一、避妊具も持っていないじゃないか。
ーーこんな形で彼女の処女を奪っていいはずがない。
ヨーコさんの大事な初めては……ちゃんと愛の告白をして、身も心も受け入れて貰ってからだ。
「……それで昨日の夜は一晩かけて女性の誘い方とセックスのテクニックについて勉強した。文章でも、動画でも。実は今日、ここに来る前に一旦自分のアパートに帰ってシャワーを浴びて来た。途中で避妊具も買って来た。どれがいいか分からなかったから3種類ある」
急に立ち上がると、持って来ていたカバンから、避妊具3箱と歯磨きセットと新しい下着を取り出して見せる。
「……ヤル気満々だったのですね」
「……満々だった」
「昨日は寝ていないのデスカ?」
「寝ていない。だけど頭は冴えてるし、昨夜学んだ事は全部頭にインプットされている」
「私が断る可能性は考えなかったのデスカ?」
「もちろん考えた……けど、今日がダメならまた明日も押し掛けるつもりだったから……」
「フフッ、トオルはお馬鹿さんデスネ」
「自分でも、必死すぎてダサいな……とは思う。あっ、透呼び、嬉しいです」
とにかく諦めたくないから……と見つめられ、思わず笑いが溢れた。
透は真剣だ。必死で真面目で馬鹿正直で、賢いのにお馬鹿さんだ。
「俺は1年前からヨーコが好きで諦められなくて、酔った勢いで想いを遂げようとして失敗した馬鹿野郎。これで秘密は全部話した」
「もう隠し事はナイのデスカ?」
「無い。それでもヨーコが許してくれるなら……今から本当にヨーコの初めてを貰いたい。ついでに言うなら俺の童貞も貰って欲しい」
そうか、処女喪失未遂の衝撃で聞き逃していたけれど、彼はさっきから『俺たちの初めて』とか『経験不足』とか『テクニックを勉強した』とか聞き捨てならない言葉を並べていたではないか。
「トオルはドーテーなのデスカ?」
「うん……ごめん」
「ゴメンじゃないデスヨ。話してくれて嬉しいデス」
彼が正直に全て話してくれたんだ。こちらも全て曝け出すべきだろう。
それに昨夜の失敗を彼のテクニック不足のせいだと勘違いさせたままでは可哀想だ。
「トオルさん、それでは次に、私の話を聞いてくれマスカ? 今まで処女だった理由デス」
誰にも話した事が無かった過去のトラウマを、この人になら聞いてもらいたいな……と、自然にそう思えたのだ。
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