マジメ御曹司を腐の沼に引き摺り込んだつもりが恋に堕ちていました

田沢みん

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10、痛くても……イイのデスヨ

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 ヨーコは小学生の頃から日本の漫画が大好きで、日本語版も英語版も各ジャンル読み漁ってきた。
 アメリカのヒーローもののコミックには興味が湧かないけれど、日本の漫画は何冊読んでも飽き足らない。

 アメリカの本屋に置いてある英訳版だけでは嫌だ。微妙にニュアンスが違ってしまう。
 日本語で内容を理解したいから、頑張って日本語の勉強をした。


 ヨーコがBLに目覚めたのは中2の冬休み。
 母親に連れられて、日本で1人暮らしをしている祖母の家に遊びに行った時のことだった。

 祖母から貰ったお年玉を持って本屋に行き、いつものように漫画を物色していた。
 普通の漫画のコーナーより少し奥まった一画に、カラフルなポップが飾られた、大きめの漫画のコーナーがドンとあった。

『あなたはこの尊さに歓喜する!』

『美人攻めと無自覚タラシ受けの攻防!』

『アナコンダサイズなんて、俺ぐらいしか引き受けてやれないだろ?……の威力!』

 聞いたことのない単語の羅列に興味を惹かれた。適当に1冊手に取りページを捲る。
 一瞬で引き込まれた。そこには性別を超えた美しい愛の形があった。感動した。

 すぐに2冊購入して持ち帰り、親には内緒でこっそり読んだ。夢中になった。



 初めて彼氏が出来たのは高1の時。中学校を卒業する時に同級生に告白されて付き合い始めた。
 高校に入って暫くしてBL好きをカムアウトしたらフラれた。

 それに懲りて、高2で出来た彼氏には、告白された時にBL好きを宣言した。
 それでもいいと言うので付き合うことになった。

 付き合って2週間程したある日、彼の家に招待されて遊びに行った。家族は出掛けていて留守だった。

 ベッドに腰掛けてお喋りしていたら突然押し倒されてキスされた。
 キスを許したら胸を揉まれて、ワンピースの下のショーツを下ろされた。

 彼のことは嫌いじゃなかったけれど、まだ気持ちがそこまで熟成されていなかったから、「ちょっと待って」と手を掴んで止めた。

 彼はいきなり怒り出して上に跨ってきた。
 頭の上で両手を押さえつけられ、片手でワンピースの裾を捲ると、自分の前をはだけて硬く勃ち上がったモノをグイグイ押し付けてきた。

「俺の彼女なんだろ。ヤラせろよ」

 いきなり突っ込もうとしてきたけれど、前戯も甘い空気も無いままのソコは全く濡れていなくて、入口をこじ開けようと押しつけられるけれど、全く入っていかなかった。
 やみくもに皮膚が引きられ押さえつけられ、不快感と痛みしかない。

「痛い! やめて!」

 思わず大声で叫んで突き飛ばしたら、彼氏はベッドの上で尻餅をついた体勢のまま、「チッ」と舌打ちして醒めた目で見つめてきた。

「なんだよ、エロ本好きだって言うから簡単にヤらせてくれると思ったのに、騙されたよ」

「エロ本なんかじゃない……」

「エロ本だろ。しかも野郎同士のセックスなんてアブノーマルにも程があるだろ。何を今更清純ぶってるんだよ」

 相手を平手打ちして部屋を飛び出した。それきり交際は終わったけれど、高校卒業まで、廊下ですれ違うたびにソイツとその友人にヘンタイだと陰口を叩かれた。

 アイツの前では絶対に泣かなかった。いつも平気な顔をして、毅然として見せた。

 家に帰り、自分の部屋に戻るとこっそり泣いた。襲われた時の痛みと恐怖と気持ち悪さに身体が震えた。

『私はヘンタイなんかじゃない。BL好きで何が悪い!』

『酷い……初めてなのに……こんなの嫌だ…』

『嫌だ……怖い……』

 夜中に怖い夢で目が覚めることもあった。色々な感情が湧き上がって苦しくなった。

 もう誰とも付き合いたくない……自分の人生に恋愛もセックスもいらない……そう思った。





「それから私はますますBLの世界にのめり込みマシタ。BLの世界の男子は清くて美しくて、私を襲ったりシマセンからネ」

 だから透に指を入れられて「痛い」と言ったのは、きっと朦朧とした意識の中で、あの時の記憶と混同していたせいだと思う……と教えてあげた。
 彼が自分のテクニック不足だと自信を無くしては可哀想だ。


 ベッドを背に、床に2人並んで黙り込む。

 透はしばらく茫然としてから俯いて……肩を震わせた。

「うっ……くそっ!」

「ええっ! 泣いているのデスカ?! こんな事で!」
「こんな事……なんて、言わないでくれよ……」

 顔を上げて眼鏡を外すと、腕でグイッと涙を拭う。
 目が合うと、クシャッと顔を歪ませた。

「やはり兄弟で似てるのデスネ。トモヤは普段はお澄ましさんですケド、ヒナコの事となると簡単に泣いちゃうんデスヨ」

「俺だって、泣くのはヨーコの事だけだ。それと……恋人同士の時間に俺以外の男の名前を呼ばないで。妬けるから」

「ふふっ、焼きもち妬きなところもトモヤと……」
「言うな」
「あっ……」

 唇を押し付けられ、口を閉じられた。
 だけどそれはすぐに離れ、透が気まずそうな顔をする。

「ごめん……男は気持ち悪いって言ってるのに……。俺、馬鹿野郎だな。もうしないから……ヨーコが嫌ならセックスなんて一生しなくても別に……」

「そんなの私がイヤですヨ」
「えっ?」

「私がトオルに触れたいのデス。もう我慢出来ません」

 目を見開いている透に抱きついてチュッとキスをした。


「言ったデショ。トオルは他の男とは違うのデス。特別なのデス。だから……ネッ、シマショ」
「……いいの? 俺、ヨーコを痛がらせないように出来るか……」

「大丈夫デスヨ。男子も女子も、初めては痛いものだと決まっているのデス。トオルとなら……痛くても……イイのデスヨ」

 首に腕を回したままニッコリと微笑んで見せたら、透の頬に朱がさして、三日月みたいにふんわり微笑んだ。

 目尻に小さなシワが寄る。
 ああ、やっぱりこの笑顔が好きだな……と思った。

 ギシッ……とスプリングを軋ませながら、2人同時にベッドによじ登った。
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