たっくんは疑問形 〜あなたと私の長い長い恋のお話〜

田沢みん

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第2章 再会編

10、もう俺のことを好きじゃないの?

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 しばらく言葉が出なかった。

 だって青いひとみだった人が、再会した時には黒いひとみに変わっていて、それがたった今、私の目の前で、一瞬にしてまた青色に戻っていて……。

 瞳の色を変えるコンタクトレンズがあるというのは知っていたけれど、そんなのは芸能人とか特殊とくしゅな人がするものだと思っていた。

ーーまさかたっくんが……どうして?

 だけどそれよりも、久しぶりに目の前に現れた透明感のあるブルーはやっぱり魅力的で、私の視線を否応いやおうなく釘付くぎづけにしてしまう。

ーーうん、これが……この瞳が、私が会いたかったたっくんの色だ。

「ハハッ、オマエってホントに分かりやすいな。さっきまでと全然表情が違うんだもんな。そんなにこの目がいいの? 」

「……うん、好き、大好き。たっくんの色だ…… 」

 臆面おくめんもなくそう答えたら、たっくんがっすら頬を赤らめて、 満足げに目を細めた。
 その魅力的な瞳を見せつけるかのように、コツンとおでこをくっつけて、至近距離からじっと見つめてくる。

「お前、やっと言ったな」
「えっ? 」

「俺のこと、好きって言った…… 」

 ささやくようにそう言うと、合わせていたひたいを離して、人差し指で私のあごをクイッと上げる。

ーー えっ、この状況って……。

 睫毛まつげせたたっくんの顔が、斜めに角度をつけて近付いてくる。

「ちょ……ちょっと待って! 」

 顔の前で両腕を交差させてガードしたら、たっくんが「お前…… 」と言いながら、その腕をき分けた。

 腕の隙間すきまから私の目を覗き込み、あきれた表情で1つ溜息をつく。

「お前なぁ……恋人の情緒じょうちょもへったくれも無いな」
「こっ……恋人?! 」

「えっ? ……恋人だろ? お前は俺のもんじゃないの? まさか他に男が出来たのかよっ! 」
「出来てない! 男とかいないからっ!……だけど、そんな子供の時のこと…… 」

「子供だろうが何だろうが、俺はずっと小夏だけだし、お前は俺のもんだって思ってる。だけどお前はそうじゃないの? もう俺のことを好きじゃないの? 」

「私は…… 」

 私はどうなんだろう?
 今のたっくんをどう思っているんだろう?

 私は保育園で出会った時からたっくんのことが好きで、会えなくなってからもずっと想い続けていて……。

 だけど、私が知っているのは9歳までのたっくんで、私の記憶の中で微笑みかけてくれていたのも、あの頃のたっくんで……。

 それじゃあ、私の目の前にいる彼は、私が好きだったたっくんでは無いんだろうか?
 私はこの人と……どうなりたいんだろう?


「ごめんなさい……私、どうしても昔のたっくんの面影おもかげを追いかけちゃって……。だって私は、今のたっくんの事を、何も知らない…… 」

 私がそう言うと、たっくんは途端に顔をしかめて、身体をソファーの背に沈めた。

「くそっ……ライバルが昔の自分かよ……そんなのどうしろって言うんだよ」

 吐き捨てるように言うと、ペットボトルの水を飲み干して、からになった容器を部屋の隅のゴミ箱に向かって投げつけた。

 ボトルはゴミ箱のふちに当たって弾かれて、フローリングの床にコロコロと転がっていく。

「そんな乱暴に投げちゃ……それに、ペットボトルはリサイクルだよ」

 ボトルを拾いに行こうと腰を浮かしかけたら、手首をつかんでグイッと引き戻された。
 ボスッとソファーに身体が沈んで倒れ込んだ私の顔を、上からたっくんの両腕が挟み込む。

 ブルーの瞳がかすかに揺れて、怒りともかなしみとも見える色をまとった。

「それじゃあ俺って何なの? 俺は誰なんだよ! どうしたらこの俺を好きになるんだよ! 」

「たっくん…… 」

「なあ小夏、俺のこと……好きになってよ…… 」

 そう言って、上からゆっくり抱きついてきた。


 身体にのし掛かる大きな身体と体重は、彼がもう9歳の少年ではないのだと教えてきたけれど、すがるように私の頬に顔をこすりつけている姿は、どこか幼くあわれに見えた。

 私はたっくんの背中に腕を回して、ポン、ポン……と一定のリズムで静かに叩き続ける。

ーーごめんね、たっくん。私は何もかも分からないよ。たっくんのことも、自分の気持ちでさえも……。

 彼の髪からただよってきたのは、深くて魅惑的みわくてきな大人の整髪料の香りだった。
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