たっくんは疑問形 〜あなたと私の長い長い恋のお話〜

田沢みん

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第3章 過去編 side 拓巳

33、発覚

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「ねえ、今日の学校はどうだった? 」

 俺が家に帰ると、ソファーで雑誌を読んでいた母さんが顔を上げて、開口一番に聞いてきた。

「……別に、普通」

 俺が目も合わさずに答えると、母さんは一瞬押し黙ってから雑誌をパタンと閉じて、俺の目の前でダイニングの椅子を引いて座った。

 俺はお祖母ばあちゃんが出してくれたお饅頭とお茶を交互に口にしながら、目線は決して合わさずに、黙々と手と口だけを動かし続ける。

「ねえ、何を怒ってるのよ」
「……怒ってない」

「嘘おっしゃい。思いっきり不機嫌な顔をしてるじゃない。文句があるなら言いなさいよ。ねえ、学校で何があったの? 」

 不機嫌なのは自分の方じゃないか。 
 イライラしてるのを隠そうともしないで、何を息子相手に必死になってんだよ。

ーー母さんが聞きたいのは『学校のこと』じゃなくて、『臼井先生がどうだったか』なんだろう?

 そう言ってやろうかと思ったけれど、すぐそばのキッチンにお祖母ちゃんがいることを思い出して、グッとこらえた。

「学校では何も無かったし、臼井先生も普通に授業をしてた。それだけ」

 早口で一気に言ってから残りのお茶を一飲みすると、母さんを睨みつけながらガタンと立ち上がった。

 母さんはまだ何か言いたそうにしていたけれど、俺の怒りの原因も、俺がそれ以上何も言う気がないという事も悟ったんだろう。
 隣の和室に引きこもった俺を、追い掛けては来なかった。



 先生と母さんの間でどんな話し合いがあったのかは知らないけれど、それから母さんの外出が減って、2人は別れたんだな……と思った。

 臼井先生が校長に何て説明したのかは分からない。だけど一旦噂になったことで危機感を持ったんだろう。

 こうなって逆に良かったのかもしれない。
 本格的にバレて大ごとになる前に解決したんだ、これで俺もまだ普通に学校に通うことが出来る。

……そう信じ込んで油断してたんだ。





 それは冬休み明けの学校初日だった。
 俺と幸夫が揃って教室に入ると、明らかに教室内の空気が変わったのが分かった。

ーーあっ……。

 心当たりのあった俺は、すぐに黙って自分の席についたけれど、何も知らない幸夫は無邪気にクラスメイトに「おはよう!」と笑顔で話しかけて行き、「ちょっと来いよ…… 」と腕を掴んで廊下に連れ去られた。

ーーやっぱりそうなんだ……。

 クラスメイトが幸夫を連れ出す時に、ドアのところでチラッと俺の方を見た事で確定した。

ーー母さんと臼井先生の事がバレたんだ……。


 冬に入る頃に別れたと思っていた2人は、実はその後も付き合っていた。
 いや、本当に一旦別れた後でヨリを戻したのかも知れないし、その辺りは俺には分からない。

 ただ、今年の正月、1月3日から4日にかけて、母さんが1泊2日の旅行に行くと言い出した時に、『あれっ?』と思った。

 横須賀に来てからその日までに、母さんの口から一度たりとも友達の話なんか聞いたことは無かったし、もちろん家に連れて来たことだって無かった。

ーーなのにいきなり旅行? しかも泊まりがけで?

 相手は男なんじゃないかと思った。
 だけど、彼氏だったら隠す必要はないはずだ。  今までだって散々開けっぴろげにしてきたんだから。

 俺に嘘をつかなきゃいけない・・・・・・・・・ような相手なんだ……。

 そう思った途端、心臓が大きくドクンと拍動した。

 どうして? もう電話はしてないはずなのに。
 ……いや、スマホをいじってる時間は増えたような気がする。
 そうか…… 電話の代わりにメールでやり取りしてるんだ。

 そんなの余計に……怪しいだろ。

 嘘だろ…… やめてくれ! 勘弁してくれよ!

 どうか俺の気のせいでありますように。
 どうかすぐに別れますように。
 どうか……どうか、お願いだから、バレないようにしてくれよ! 頼むよ母さん!


 だけどそんな俺の願いもむなしく、母さんと臼井先生の事は学校中の噂となり、その日からいきなり臼井先生は、『病気療養』と言う名の自宅謹慎処分となった。

 噂の張本人が不在となった学校には、一大スキャンダルに湧きかえる生徒たちと、狼狽うろたえる教師たち、そして針のむしろ状態の俺が取り残された。
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