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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志
13、その先に進んだら……
しおりを挟む「母さん、明日、冬馬がご飯食べに来るから」
「そう、それじゃ献立は何にしようかしらね」
「アイツはとりあえず揚げ物出しとけばオッケーでしょ」
「ふふっ、そうね。この前は鶏の唐揚げだったから、今度は蓮根の挟み揚げでもしましょうか」
冬馬は揚げ物が好物だ。いや、特に好き嫌いは無いし、出されたものは何でも美味いウマイって食べるからそんなに気にする必要は無いんだけど。
『茄子のひき肉挟み揚げ、美味いです!祖母と2人暮らしだったんで煮物系の料理や焼き魚とかが多くて、油っこいものはあまり食卓に出なかったんですよ。揚げたての料理って最高ですね!』
そんな風に料理を褒められた母さんは、冬馬が来る日にはいそいそと揚げ物の支度をする。
1人暮らしの冬馬の食生活を心配して、家に来る時はアイツの好物かつバランスの取れたものをと配慮しているようだ。一気に品数が増える。
ーー全くアイツは年齢問わず女を虜にするな。みんな冬馬に甘くなる。
「えっ、蓮根の挟み揚げを作るの? 私も覚えたい! 明日一緒に作ってもいい?」
ーーそして、ここにも冬馬に甘々の女が1人……。
桜子の冬馬への憧れはまだ継続中で、会えば顔を赤くするし、話しかけられれば照れて微妙に目線を逸らしながら一生懸命に答えている。
冬馬も桜子のことを可愛がってくれて、実の妹みたいに接してくれている。
ーーちょっと近過ぎではあるけどな。
冬馬に桜子が虐待を受けていた過去を話したのは俺だし、そのことを理解したうえで優しくしてやって欲しいとも思っていた。
だけど、徐々に距離感が近くなっているのがどうも気になる。
「おっ、桜子。今度はとうとう揚げ物にチャレンジか?」
「うん、この前の卵焼きもお兄ちゃんが褒めてくれたでしょ? お料理をするのがどんどん楽しくなっちゃった」
ここのところ桜子は学校で習ったものを家で再現しては食べさせてくれる。
そして俺がベタ褒めするとパアッと明るい顔をして喜び、そして同じメニューが3日間ほど続く。その繰り返し。
ーーうん、桜子は褒めると伸びる子だな。今後も俺がどんどん褒めて料理のレパートリーを増やしてやろう。
可愛い妹の成長に満足してうんうんと頷いていると、
「冬馬さんも美味しいって言ってくれるかなぁ?この前の卵焼きも上手だねって言ってくれたし」
弾んだ声が聞こえてきた。
ーーイラッ……
「……冬馬は何を食っても美味いって言うんだよ。アイツ、本当は卵焼きはだし巻き派で甘い派じゃないし。俺は甘いのも好きだけど」
途端に桜子の表情が曇るのを見て、慌ててフォローに回る。
「いや、アイツ、『甘いのもいいな』って言ってたぞ。桜子の卵焼きは本当に美味しかった!」
罪悪感。
褒めて伸ばすって言ってたくせに、舌の根も乾かぬうちに逆に落ち込ませてしまった。
駄目だ。最近の俺はどうも卑屈になってしょうがない。
妹なんていつか離れていくものなのに。
俺だっていずれは誰かと結婚して家庭を持って……。
ーーあれっ……?
だけど頭には結婚相手も家庭も浮かばなかった。
咄嗟に浮かんだのはいつもの食卓、いつもの風景。当たり前みたいに桜子と食卓を囲んで笑い合ってる図が浮かんだだけ。
ーーあれっ?……ナンダコレ。
俺の人生設計は桜子とワンセットなのか?
あれっ………。
「「冬馬さん、いらっしゃい」」
翌日、俺が冬馬を連れて帰ると、うちの女性陣は大歓迎で出迎えた。
「冬馬さん、この蓮根の挟み揚げを食べてみてくれない? 桜子も手伝ってくれたのよ」
「へぇ、凄いね桜子ちゃん、いただきます!……うん、美味しい!蓮根がシャキシャキで中のお肉がジューシーだ。もう1個いただいてもいいかな?」
桜子は最初、冬馬が食べるのを不安そうに見守っていたけれど、美味しいと褒められると目尻を下げて嬉しそうにはにかんだ。
ーーなんだよ、真っ先に冬馬に食べさすのかよ。桜子の料理の味見役はいつも俺だったじゃん。
冬馬も今日はやけに饒舌だな、おい。お前は食レポなんかするような人種じゃなかっただろ。
不貞腐れながらも大皿から蓮根の挟み揚げを取って頬張ると、思わず「美味っ!」と声が出た。
「だろっ?」
冬馬に言われてなんだかイラッときた。
ーー『だろっ?』ってなんだよ。
なんでお前の方が桜子の料理を分かってる風なんだよ。
「桜子ちゃんは料理上手だね。いいお嫁さんになるよ」
桜子が頬を染めるのを見て、なんだか凄く焦る気持ちが湧いて来た。
ーーくそっ、こんなことなら冬馬を呼ぶんじゃなかった……。
「えっ……」
ーー俺いま……何を考えた?
最近の俺は……俺じゃなくなっていく。
だけどその理由を深く考えてはいけない。
その先に進んだら……たぶん終わりだ。
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