133 / 177
<< 外伝 水口麻耶への手紙 >>
28(ラスト)、八神大志への言葉
しおりを挟む手を合わせたままでゆっくりと顔を上げると、もう一度墓石をジッと見つめる。
「それにしても先生は酷い人ですね。アレをしろコレをしろって散々頼みごとをしておいて、お別れの法要には呼んでくれないなんて」
四十九日法要は桜子さんと日野先生の2人だけで行うというのが八神先生の希望だったという。
それを聞いた時には少し寂しい気もしたけれど、今となってはその方が良かったのかも知れないな……と思う。
1人でここに来たことで、人目を気にせずこうしてゆっくりお話する事が出来るのだから。
「先生、桜子さんは今度こそ本当に日野桜子さんになりました。結婚式は無しですけど、今度ウエディングドレス姿の写真だけ撮りに行くそうですよ。忙しいから新婚旅行はしばらくお預けですって。あの2人らしいですね」
ーーあとは……。
他に言い残した事は無かったかとしばらく考える。
ーーあっ、そうそう!
「先生……謀りましたね」
桜子さんが私と日野先生の会話を立ち聞きしてしまった翌日、揃って事務所に出勤して来た2人は、照れ笑いしながら事の顛末を交互に聞かせてくれた。
あの日、家に帰った日野先生は全てを包み隠さず話し、お互いの本音を曝け出してじっくり話し合ったのだそうだ。
「私と日野先生がお付き合いしてるだなんて……よくもそんな作戦を思いつきましたね」
桜子さんがやけに私に対しておどおどしていると思ったら、私が日野先生の恋人なのだと思い込んでいたのだと言う。
『お兄ちゃんの勝手な思い込みで、私まで勘違いしちゃって……』
桜子さんははにかみながらそう言ったけれど、これは思い込みなんかじゃない、八神先生の確信犯だ……と思った。
チラリと日野先生を見ると、彼は苦笑しながら黙って頷いてみせた。
その瞬間に、私の頭の中で、一枚のパズルが綺麗に完成した。
ーーそうか……そうだったんだ……。
「八神先生、私、漸く分かりましたよ。先生は日野先生に自分が桜子さんを好きだと教えて牽制しつつ、陰では桜子さんに私が日野先生の彼女だと信じ込ませて分断工作を謀ってたんですね」
一方の日野先生は、自分の恋心を八神先生に見抜かれているとも知らずに、必死に気持ちを押し殺そうとしていた。
どう見ても恋心がダダ漏れだったのに、当の本人と桜子さんはそれに気付かずに、両片想いの状況を長く引き摺っていたというわけだ。
「先生のせいで、あの2人はずいぶん遠回りしちゃいましたよ。まあ、それが先生の狙いだったんでしょうけど」
まさしく八神大志の作戦通り。
私たちはみんな彼の手の中で転がされていたのだ。
「先生の悪知恵には呆れるよりも感心しちゃいましたよ。八神先生と日野先生のコンビだったら無敵だったのに……なんて、私も未練がましいですね」
そんな八神先生でさえ、まさか日野先生が遺言だなんて嘘をついて、桜子さんをモノにしちゃうなんて未来は想像していなかっただろう。
ーーまあ、それだけ日野先生が桜子さんにゾッコンだった……っていうことなんでしょうけど。
「あっ、そうそう。私、お付き合いしていた彼とはお別れしました」
前から薄々気付いてた。
あの人は私には愛情を持ってくれているけれど、息子には同じように愛情を向けてくれてはいない。
結婚をせがまず金払いの良い私との関係が心地いいだけだって分かっていながら、1人になるのが寂しくて、ズルズルと関係を続けていたけれど……。
「私には息子がいて、素晴らしい仕事の仲間だっているのに、どうして1人ぼっちだなんて思ってたんでしょうね」
だけど漸く前に進む事が出来た。
八神大志からの手紙の……
あなたの言葉で前に進む勇気を持てたんです。
『駄目ンズ好きだなんて自分で枠を作らずに、選択の幅を広げてみてはどうだろうか』
『まだまだこれからの可能性があるあなたには幸せになって欲しいと思うから』
ーーそうですね……。
3つばかり歳下で、地位もお金も美貌もあるのに、愛する妹を誰よりも想い、大切な親友のために身を引くような、賢くて不器用な男……。
最期まで想いを告げられずに悶々と悩み苦しむような駄目な男がいいかも知れないですね。
そう、そんな人がこの世にいてくれたら……きっと本気で好きになっていたでしょう。
そんないい男はなかなか現れないと思うから……しばらくはせいぜい後輩の指導に全力を尽くします。
ーー先生、あなたの大事な……あなたが命よりも大切だと言ったあの人たちは……今はとても幸せですよ。
そして私も……。
「八神先生、ありがとうございました」
くゆる線香の煙の向こう側で、八神先生が太陽のような笑顔を浮かべているのが見えたような気がした。
Fin
*・゜゚・*:.。..。.:*.。.:*・・**・゜゚・*:.。.. .。.:*・゜゚・*
『外伝 水口麻耶への手紙』これにて完結です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
あとは『外伝 ジョンへの手紙』、大志の最期、桜子と冬馬のその後……で(たぶん)終了かと思います。
こちらは全部短くササッと終わる予定です。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。