【R-18】キスからはじまるエトセトラ【完結】

田沢みん

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56、全部話すから聞いてくれ

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「ホテル……咥えられた……って…」

「これは煮え切らなかった俺のせいでもあるし、水瀬のプライドにも関わるから……だけど、ここを避けてたせいで楓花とこんな状態になってるんじゃ駄目だ。腹を括るよ」

「全部……話してくれるの?」

 天馬は前方を向いたまま深く頷いた。

「話す。ちゃんと話すから楓花も教えてくれ。椿になんて言われた? 1人で抱え込まずに教えて欲しい。椿の言葉もお前の怒りも不安も全部逃げずに受け止める」

 その言葉を聞いて、 楓花の心は決まった。

ーー天にいが正直に向き合おうとしてくれているのに…… 私が逃げてちゃダメだ。

「分かった、お店での会話を全部話す」

 楓花はコクリと頷いて、途中で声を詰まらせながらも、椿との会話を順に話していった。



「……それで、私のせいで医局を去った天にいに何か与えてあげられるのか?……って聞かれて、 私は何も答えられなくて……。男は初めての女を忘れられないって言われて、もう耐えられなくって……」

 天馬は楓花の話に相槌を打ちながら黙って聞いていたけれど、話が一通り終わると、「ハ~ッ」と深い息を吐きながら、片手で顔をぬぐった。

「そんな事を言われたのか……それは……辛かったよな。水瀬がそこまでするとは思っていなかった。軽く見ていた俺のせいだ」

 思い出すだけで苦しくなって涙が込み上げてくる。だけど今は泣くよりも、ちゃんと話をしたい。
 楓花は奥歯をグッと噛んで堪えた。

「楓花……今の話には、合っている部分もあるけれど、間違っている所も沢山ある」
「間違い?」

「まず……お試しとはいえ、一応付き合ってはいた。それは水瀬が言う通りだ。彼女として大河に紹介したこともある」

 その言葉に楓花は睫毛を伏せる。胸がズキンと痛んだ。

「お前のことを諦めなきゃって思ってた時に椿と見合いをして、お試しでの付き合いを提案されて……いい機会だと思ったんだ」

「私に彼氏がいると思ってたから? 」

「そうだ。それに俺の気持ちを気付かれて幼馴染のいいお兄ちゃんの座を失うのが怖かった。だから、無理にでも椿に気持ちを傾けようとしたんだ」

「じゃあ、お互いに勘違いしていなかったら、私たちはこんな事になっていなかったの? もっと早くに付き合えてたの?」

「それは分からない」

 天馬はゆるりと首を振って、楓花にチラリと視線をよこす。

「もしもあの頃俺かお前のどちらかが告白したら付き合えていたのかも知れない。だけど年齢差や幼馴染みの壁を越えられずにすぐに駄目になっていた可能性だってある」

「でも……」

「全ては仮定でしかない。だけど俺たちは再会して、今こうして一緒にいる。もしもの話をして後悔するよりも、過去を清算して前に進みたい。楓花……俺はお前との未来を見据えているし、そうハッキリ言える今、この歳でお前と付き合えて良かったと思ってるんだ」

「天にい……」

 天馬が手を伸ばし、楓花の手を強く握りしめた。

「だから楓花……全部話すから聞いてくれ」
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