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60、お前のキスからはじまった (2) side天馬
しおりを挟む「嘘っ!お兄ちゃん最悪!」
楓花が車内で思わず大声を上げた。
「あれは涼太とその彼女で……」
「ああ、今でこそ真実が分かっているけど、その時はそんなの知らないし、大河が『彼氏』を連呼するから、そう思い込んだって仕方ないだろ?」
「それはそうだけど……じゃあ、お兄ちゃんが余計な事を言わなかったら告白してくれてたの?」
「……かも知れないな」
「え~~~っ!」
こうなると、重ねがさね兄が憎い。
お調子者で楽天的で、そしておっちょこちょいで……少し、いや、かなり抜けている男なのだ。
「そんな……不毛な恋って……。私と涼太は恋人でも何でも無かったのに」
天馬はハンドルから離れると、シートにドサッともたれかかって、少し後ろに倒してから楓花に顔を向けた。
「あんなにしょっちゅう2人でいる所を見せつけられたら、誰だってそう思うだろ。現に大河もお前たちが付き合ってるって思い込んでた」
「もう、お兄ちゃん!……天にいだって直接聞いてくれたら良かったのに」
「そんなコト聞いて、『はい彼氏です』なんて言われたら立ち直れないだろ? そこで取り乱して嫉妬丸出しのセリフなんて吐いたら、それこそ一巻の終わりだ」
「俺様のくせに、結構ヘタレ」
「なっ!ヘタレ……って。そうだよ、俺はヘタレだったんだ。7歳の年齢差は男を弱気にさせるんだよ。それにな……嫉妬深くもさせる」
天馬の目に熱いものが宿ったのを見て、楓花は一瞬身を固くした。
「あの日……楓花と退院祝いの約束をした日、お前、あの涼太ってヤツを見て頬をバラ色に染めてただろ。頭がカッとなって、車のエンジンを切るのも忘れて店に飛び込んだ」
「……嫉妬したの? 」
「ああ、 めちゃくちゃ妬いた。アイツを追いかけてこっちに帰って来たんだと思ったら、気が狂いそうだった。しかも『また会おう』とか言ってるし」
「ふふっ……」
「不倫なんて許さない」
「しないよ」
「不倫じゃなくても、俺以外の男と2人っきりで会うなんて許さない」
「えっ、 それはちょっと……」
睫毛を伏せた天馬の顔が近付き……唇が触れる直前でピタッと止まる。
「……天にい?」
「……駄目だな。ここで雰囲気に流されたら、それこそなあなあで済ませて大事な話が出来なくなる」
大事な話……椿さんとの関係。
天馬は姿勢を正してから、話を再開した。
「とにかく、そういう訳で告白の芽は絶たれた。俺はその後しこたま飲んで、ぐでんぐでんに酔っ払って家に帰った」
結局告白をする事はなく、楓花への想いを断ち切る決意をした。
「俺だって椿との未来を考えなかった訳じゃない。 迷いはあったけれど、それもいずれは吹っ切れて、それなりに幸せな家庭を築けるんだろうとも思った。だけど…… 」
天馬は楓花の膝の上で小さな手をギュッと握った。
「今でもハッキリ覚えてる。大河の結婚式の翌日、お前が俺に会いに来た」
「あっ…… 」
「全ては……お前のキスからはじまったんだ」
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