60 / 169
59、お前のキスからはじまった (1) side天馬
しおりを挟むそこまで話し終えて、天馬は大きく息を吐いた。
「……ここまでが、俺と水瀬が付き合う事になった経緯」
ここまでは、楓花が大河の結婚式の日に聞いた話や今朝の椿からの話と大きな違いは無いように思える。
ただ、椿の話はやや自分に都合がいいように美化されている印象はあるけれど……。
「お見合いをした後で断りを入れずに付き合い続けるというのは、即ち結婚に前向きだと捉えられても仕方がない。水瀬が多少強引に事を進めた感は否めないけれど、そうやって外堀を固められる事にホッとしている自分もいた」
「外堀を固められて……ホッと?」
「ああ。そんな状況になっても俺はまだ未練たらしくお前のことを思っていた。いつまでも踏ん切りがつかなくて、前にも後ろにも進めずに立ち止まっている自分が嫌だった。だから、水瀬の強引さに流されて後戻り出来なくなってしまえばいいと思ってたんだ」
「私のことをずっと好きで……だけど諦めようとしていたの?」
天馬が「うん」と頷いた。
「時間が経てば楓花の事を諦められるんじゃないかと思っていたし、諦めなければ先に進めないと思った。不毛な恋を終わらせるために、俺は水瀬の気持ちを利用したんだ……」
椿に同期以上の感情を持てないくせに、そのうちに好きになれるんじゃないか、結婚してしまえば夫婦としての愛情を持てるんじゃないか……そう思ったのだと言う。
「ヤケになっていた……とも言えるけどな」
急にザザッと土か砂利の上を走るような音がして、しばらく走ってから車が停まった。
暗くて良く見えないけれど、どこかの広い駐車場に停まったようだ。天馬はエンジンを切ると、ハンドルに両手を置いて楓花を見た。
「そしてここから先が、水瀬が楓花に語った話の後半部分になる」
「後半部分……」
椿が天馬と寝たと、初めての女だと言う衝撃の言葉。楓花のせいで婚約を解消したという、その話を今から……。
「まず……そうだな。大河の結婚式の3次会。そこから始めようか」
*
「お~い、飲んでるか? 楽しんでるか? イチャついてるか~?」
結婚式の3次会は市内にあるイタリアンパブで、ピザやパスタ、サラダなどが食べ放題の立食形式だった。
天馬が2次会から引き続きついて来た椿と共に背の高い丸カウンターテーブルで向かい合ってカクテルを飲んでいると、いい感じに酔いが回った大河が上機嫌で間に割り込んで来た。
「大河、お前飲み過ぎだろ。明日の朝ハワイに出発なのに大丈夫なのか?」
「だ~いじょ~ぶですっ!俺の奥さんはしっかり者なのでっ!」
「まあ、茜はお前には勿体無いくらいのしっかり者だからな。捨てられることなくゴールイン出来て本当に良かったよ。おめでとさん」
「ありがとっ!次はお前たちの番だな。結婚式には呼んでくれよっ!」
ーーアホ大河、まだ具体的に決まってないうちから煽るんじゃねえよ!
「ええ、喜んで。披露宴には絶対にご招待するわ」
満面の笑みで即答した椿の笑顔を見て、胸がチクリと痛んだ。
椿は『お試し』と言いながら、周到に外堀を埋めて来ている。
そして天馬もそれを知りながら、『待った』を掛けずに流されている。
そのくせこうして具体的な話になるとはぐらかし、どうにか引き延ばそうとしていて……。
ーーフッ……俺も往生際が悪いな。
楓花のことは諦めると決めたくせに、心の何処かでほんの数パーセントの可能性を探っている。
だって自分はまだ何一つ行動に移していない。駄目だったと諦める以前に、ちゃんと告白もしていなければフラれてもいないのだ。
そんな事をぼんやり考えていると、「そう言えば…」と不意に大河が話題を変えた。
「楓花が明日東京に行っちゃうんだ」
「えっ……明日?!」
「ああ。早めに行って新生活の準備を整えたいからって。俺がハワイから帰ったらもう家にいないんだぜ。あの楓花が短大生だぜ。信じられるか?!」
「あら、何のお話?」
興味を示した椿の問いに、大河がペラペラと喋り出す。
「楓花……俺の妹が明日の朝から東京に行っちゃうんだ。楓花は昔から俺と天馬の後ろにくっついて歩いてて、天馬は『颯太』って呼んで弟みたいに可愛がってた」
「ふふっ、女の子なのに『颯太』とか『弟』って……可哀想に」
明日の朝には楓花がいなくなる……。
東京に行くというのは噂で聞いていたけれど、それが明日の朝だなんて……。
ーーどうせ諦めるつもりなら、報われないのを覚悟で告白してしまおうか……。
そんな考えが頭をよぎった時……
「アイツ……楓花の彼氏も上京するみたいだぞ。この前アイツともう1人女の子が店に来て、楓花と3人でアパート情報を見てた」
ーーアイツ……あの男と東京に行くのか!
12
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる