婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

田沢みん

文字の大きさ
20 / 83
<< 番外編 >>

ニューヨークでニアミスした話 (1)

しおりを挟む
 
 これは朝哉25歳、雛子21歳のニューヨークでのお話。



「ウエルカムバック トゥ ニューヨーク!トモヤ!」

 JFK空港で到着口から出た途端、乗客を待つ人垣の最前列で、手書きのウエルカムボードを掲げたヨーコが大声を張り上げてブンブン手を振っているのが見えた。

ーーうわっ!

 ヨーコは中身はオトコ前だけど見かけだけは綺麗なお姉さん風だから、そんなヤツがこんなオーバーアクションをしてると目立って仕方がない。

 知らん顔して通り過ぎてやろうかとも思ったけれど、わざわざお迎えに来てくれた相手にそういう訳にも行かないので、大きなスーツケースをゴロゴロ引いて近付いて行った。
 

「ただいま……って、随分ド派手なウエルカムボードだなぁ、おい」

 長方形の白い厚紙に『おかえり!トモヤ!♡』と七色使って書いてある。ご丁寧にデフォルメされた似顔絵入り。下手くそだな。画伯かよ。

「ナニ言ってるのですか。お出迎えに派手なウエルカムボードはお約束なのですヨ」
「お前、それを掲げるのやってみたかっただけだろ」

「ギクッ!……デスガ、トモヤを歓迎する気持ちはアリアリなのデスヨ!ワタシの友情をそんな風に言うなんてヒドイ!エーン!」
「相変わらず泣き真似下手くそかっ!」

「グヌヌ……そんなイジワルを言うトモヤには……ヒナコの最新の写真を見せませんヨッ!」
「うわっ、ごめん!マジでごめんなさい!写真下さい!うま〇棒やるからさっ!」

 そんな相変わらずのやり取りをしながら駐車場に向かい、ヨーコの運転する車でこれから1年間住むことになるアパートへと向かう。



 ヨーコはNYU時代の1学年先輩にあたる。マーケティングや経営学のクラスで一緒になり、向こうから「日本人デスカ?」と話し掛けてきたのが始まり。

 日系企業に就職を希望していた彼女が、卒業後にクインパスのニューヨーク営業所で働き始めたことで、更に仲良くなった。

 朝哉が日本に帰国するにあたり雛子のストーカー……もとい見守り役を頼んだ時、最初は難色を示したものの、これは日本では『忍者』や『隠密』が行なう大事な役目なのだと言ってやったら目をキラキラさせて乗ってきた。

 雛子の見守りどころか親友になってしまったのには驚いたが……お陰でより詳しい雛子情報と正面を向いた写真がゲット出来るので非常に助かっている。


 そして今回会社から1年間のニューヨーク営業所勤務の辞令が出たことにより、こうしてヨーコにお迎えに来てもらっているというわけだ。

 嬉しい。更に雛子の近くに来ることが出来た。

 雛子に会うことは出来ないのだから、日本でもアメリカでも変わりは無いようなものだけど……それでも同じ街の空気を吸い、同じニューヨークの空を見上げているのだと思えば……それだけでも胸が一杯になって、泣きたいほど嬉しくなるのだ。


「トモヤ、アパートは本当にマンハッタンじゃなくて良かったのデスカ?」
「うん、離れていた方がいい」

 今回ヨーコに手配してもらったアパートは、マンハッタンの対岸側のウエストチェスター地域にあるスカースデールという街の1DK。

 マンハッタンへはメトロラインで約30分、セレブが住む町としても知られていて治安も良いので、日本人駐在員が多く住んでいる。

 どうしてマンハッタンを避けたかと言えば、雛子と会わないためだ。

 いや、雛子に会いたいのはやまやまだけど、会ってしまえば抱きしめたくなる。抱きしめたら最後、もう手離せなくなるに決まってる。

 そんなの駄目だ。約束違反は許されない。
 雛子に真実を知られる訳にはいかない。
 彼女にとって黒瀬朝哉は、『抱いておきながら婚約破棄をした、最低最悪の男』でいなければならないのだから。

 偶然の遭遇を避けるためには生活圏が離れていた方がいい。
 NYU近辺には絶対に行かない。日本人の学生が寄り付きそうな店も駄目だ。


 息が詰まるほどの胸の痛みを感じながら、車窓から薄曇りのニューヨークの空を見上げた。

ーーヒナ、お前も今、この空を見上げているのか? 俺はニューヨークに来たよ。

 NYUで必死に学びながら人脈作りをし、定治から貰ったお金を倍以上に増やした。

 日本では寝る間も惜しんでがむしゃらに働いた。
 社長の息子だからという声を払拭するために何でもやった。苦手だった酒にも強くなったし、交渉術や心理テクニックの講習会だって受けに行った。
 あらゆる手段を使って新規顧客の開拓をし、優秀社員として表彰もされた。周囲を実力で黙らせた。

ーーあと少しだ……。

 ニューヨークから本社帰還は出世コースと言われている。
 ここで結果を出せば、きっと専務への道は拓ける。

 だからあと1年、それさえ我慢したら雛子に会える。
 あと1年は絶対に会ってはならない。

 そう思っていたのに……。

 広いニューヨークの空の下、会ってはならない彼女に会ってしまった。

 彼女は気付いていなかったけれど……あの時の衝撃は、きっと一生忘れることが出来ないだろう。
しおりを挟む
感想 398

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。