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<< 番外編 >>
ニューヨークでニアミスした話 (1)
しおりを挟むこれは朝哉25歳、雛子21歳のニューヨークでのお話。
「ウエルカムバック トゥ ニューヨーク!トモヤ!」
JFK空港で到着口から出た途端、乗客を待つ人垣の最前列で、手書きのウエルカムボードを掲げたヨーコが大声を張り上げてブンブン手を振っているのが見えた。
ーーうわっ!
ヨーコは中身は漢前だけど見かけだけは綺麗なお姉さん風だから、そんなヤツがこんなオーバーアクションをしてると目立って仕方がない。
知らん顔して通り過ぎてやろうかとも思ったけれど、わざわざお迎えに来てくれた相手にそういう訳にも行かないので、大きなスーツケースをゴロゴロ引いて近付いて行った。
「ただいま……って、随分ド派手なウエルカムボードだなぁ、おい」
長方形の白い厚紙に『おかえり!トモヤ!♡』と七色使って書いてある。ご丁寧にデフォルメされた似顔絵入り。下手くそだな。画伯かよ。
「ナニ言ってるのですか。お出迎えに派手なウエルカムボードはお約束なのですヨ」
「お前、それを掲げるのやってみたかっただけだろ」
「ギクッ!……デスガ、トモヤを歓迎する気持ちはアリアリなのデスヨ!ワタシの友情をそんな風に言うなんてヒドイ!エーン!」
「相変わらず泣き真似下手くそかっ!」
「グヌヌ……そんなイジワルを言うトモヤには……ヒナコの最新の写真を見せませんヨッ!」
「うわっ、ごめん!マジでごめんなさい!写真下さい!うま〇棒やるからさっ!」
そんな相変わらずのやり取りをしながら駐車場に向かい、ヨーコの運転する車でこれから1年間住むことになるアパートへと向かう。
ヨーコはNYU時代の1学年先輩にあたる。マーケティングや経営学のクラスで一緒になり、向こうから「日本人デスカ?」と話し掛けてきたのが始まり。
日系企業に就職を希望していた彼女が、卒業後にクインパスのニューヨーク営業所で働き始めたことで、更に仲良くなった。
朝哉が日本に帰国するにあたり雛子のストーカー……もとい見守り役を頼んだ時、最初は難色を示したものの、これは日本では『忍者』や『隠密』が行なう大事な役目なのだと言ってやったら目をキラキラさせて乗ってきた。
雛子の見守りどころか親友になってしまったのには驚いたが……お陰でより詳しい雛子情報と正面を向いた写真がゲット出来るので非常に助かっている。
そして今回会社から1年間のニューヨーク営業所勤務の辞令が出たことにより、こうしてヨーコにお迎えに来てもらっているというわけだ。
嬉しい。更に雛子の近くに来ることが出来た。
雛子に会うことは出来ないのだから、日本でもアメリカでも変わりは無いようなものだけど……それでも同じ街の空気を吸い、同じニューヨークの空を見上げているのだと思えば……それだけでも胸が一杯になって、泣きたいほど嬉しくなるのだ。
「トモヤ、アパートは本当にマンハッタンじゃなくて良かったのデスカ?」
「うん、離れていた方がいい」
今回ヨーコに手配してもらったアパートは、マンハッタンの対岸側のウエストチェスター地域にあるスカースデールという街の1DK。
マンハッタンへはメトロラインで約30分、セレブが住む町としても知られていて治安も良いので、日本人駐在員が多く住んでいる。
どうしてマンハッタンを避けたかと言えば、雛子と会わないためだ。
いや、雛子に会いたいのはやまやまだけど、会ってしまえば抱きしめたくなる。抱きしめたら最後、もう手離せなくなるに決まってる。
そんなの駄目だ。約束違反は許されない。
雛子に真実を知られる訳にはいかない。
彼女にとって黒瀬朝哉は、『抱いておきながら婚約破棄をした、最低最悪の男』でいなければならないのだから。
偶然の遭遇を避けるためには生活圏が離れていた方がいい。
NYU近辺には絶対に行かない。日本人の学生が寄り付きそうな店も駄目だ。
息が詰まるほどの胸の痛みを感じながら、車窓から薄曇りのニューヨークの空を見上げた。
ーーヒナ、お前も今、この空を見上げているのか? 俺はニューヨークに来たよ。
NYUで必死に学びながら人脈作りをし、定治から貰ったお金を倍以上に増やした。
日本では寝る間も惜しんでがむしゃらに働いた。
社長の息子だからという声を払拭するために何でもやった。苦手だった酒にも強くなったし、交渉術や心理テクニックの講習会だって受けに行った。
あらゆる手段を使って新規顧客の開拓をし、優秀社員として表彰もされた。周囲を実力で黙らせた。
ーーあと少しだ……。
ニューヨークから本社帰還は出世コースと言われている。
ここで結果を出せば、きっと専務への道は拓ける。
だからあと1年、それさえ我慢したら雛子に会える。
あと1年は絶対に会ってはならない。
そう思っていたのに……。
広いニューヨークの空の下、会ってはならない彼女に会ってしまった。
彼女は気付いていなかったけれど……あの時の衝撃は、きっと一生忘れることが出来ないだろう。
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