婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

田沢みん

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フランス旅行のお話なのデス (3)

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 メディカルEXPOは、医療機器や実験器具、健康機器などを扱うメーカーが新商品の売り込みや新規販路の開拓のために一堂に会する国際的な大型企業展だ。

 毎年150~160もの企業がブースを出して商品展示やデモンストレーションを行っていて、クインパスも病院や医療機関への営業のため精鋭メンバーを送り込んでいる。

 今年はフランスのパリで3日間に渡って開催されている、その企業展の最終日。
 ヨーコは雛子とカレンを伴って、会場に足を運んでいた。


『会場に到着。ヒナコはダークブラウンのミモレ丈シャツワンピースを着ています』

 エッフェル塔から徒歩15分程の会場の前で写真を撮ると、すぐに朝哉に送信する。

『分かった。ありがとう』

 短い返事。ヨーコと同様、いや、それ以上に朝哉は緊張しているのだろう。待ちに待った瞬間。
 だけど声を掛けるわけにも見つかるわけにもいかないのだ。



 朝哉が3日間ある企業展の最終日を指定したのは、その日だけ朝哉がオモテに出なくてもいいかららしい。

 元々東京本社のスタッフがメインで朝哉は裏方だと言われていたのに、英語と中国語が流暢な上にスペイン語とフランス語も挨拶程度なら出来る朝哉を見て、チーフがデモンストレーションの役目を割り振ってきた。
 顔がいいから客寄せパンダとしての期待もあったのだろう。

 それでもどうにか頼み込んで、3日目の午前中だけは裏方に徹することにさせてもらったという。
 顔が良くて優秀だと、本人が望まなくても表舞台に立つことを望まれてしまうものなのだ。



『一番手前の自動血圧計のブースで血圧を測ってもらってます』

『体重計に乗りました。ヒナコは101パウンドです。軽すぎですね』

『光学顕微鏡を見ています。クインパスのライバルですね』

 ブースを移動するごとに朝哉に場所を伝える。あまりキョロキョロすると雛子に怪しまれるので普通にしているけれど、きっと朝哉は何処かからジッと雛子を見つめているのだろう。


『もうすぐクインパスのブースですよ』

 そこで朝哉から久々の返事が来た。

『顕微鏡を覗かせて』

 さすが大手だけあってクインパスのブースは大きめで、光学顕微鏡のコーナーと心臓カテーテルのコーナー、そして内視鏡手術の様子を映した大きな画面の前に最新型の内視鏡カメラ本体とモニターがドカンと展示してある。

「ヒナコ、顕微鏡デスヨ。覗いてみまショウ」

 素直な雛子は何の疑いもなく目をつけて接眼レンズを覗き込む。
 それを待ち叶えたように、ブースの後ろから朝哉がチラリと顔だけ覗かせた。

 朝哉はこちらに向かって唇の前で「シッ」と人差し指を立ててから、ジッと雛子を見つめる。唇をグッと噛み締めて、目蓋を震わせて。
 何も言わなくても、細められたその瞳が『愛おしい』と語っていた。

 もういいじゃないか。
 朝哉は十分頑張った。今までよく耐えてきた。
 立派な営業成績を残した。もう専務になることだって決まった。

ーー会いたかったって、大好きだって声に出して言ってしまえばいいのに。

 だけど彼はそれをしない。
 凄く器用で何でもソツなくこなしてしまうくせに、雛子に関しては途端に不器用で臆病になるのだ。

 目が合った。
 朝哉は口角を少し上げて苦笑しながら、視線をまた雛子に戻す。
 
 出来ることなら大きな黒い瞳を、長い睫毛を、小さくて赤い唇を見せてあげたいけれど、それは叶わないから……。

「ヒナコ、標本を変えますからそのまま目を離しちゃダメですヨ」
「はい」

ーートモヤ、せめて鈴の音のようなヒナコの可愛い声を聞かせてあげますからネ。

 担当の男性がプレパラート標本を交換する。
 ハウスダスト、アスベスト、ナイロン繊維。
 標本が変わるたびに雛子に声を掛けて感想を聞いた。

「ヒナコ、何が見えますか?」
「なんだかガラスの破片みたいに見えるけど、これがハウスダストなのね」

「次はナイロン繊維ですヨ。見えてますか?」
「ええ、太い道路が交差してるみたい」

ーートモヤ、ちゃんとヒナコが見えてますか? 声が聞こえていますか?

 自分にはこれくらいの事しかしてあげられないけれど……隠密として少しは役に立ててますか?
 あと数ヶ月頑張るためのパワーは充電出来ましたか?


 流石にもう引き延ばせない。限界だ。
 朝哉をチラリと見る。

 彼は「うん」と黙って頷いてから、顔の前で手のひらを合わせて、『サンキュー』と唇を動かした。
 それからスッとブースの裏側に姿を消して行く。

 ほんの2~3分だっただろうか。
 このたった数分のためだけに、朝哉はどれだけの手間と労力とお金を費やしたのか。

 だけど愚かだとは思わない。
 たった数分。それでも彼が頑張るためにはどうしても必要な時間だったのだろう。

ーートモヤ、8月にはヒナコと一緒に日本に来るのデスヨ!

 彼ならきっとやり遂げる。
 8月には一緒の飛行機に乗って、仲良く連れ立って日本の空港に降り立つのに違いない。


『ヒナコ、お帰りなさい』

『驚きましたか? トモヤがアシナガオジサマだったのですヨ!』

『トモヤの秘書として一緒に働けるのデスヨ!』

ーーそう言って私が笑顔で2人を出迎えるのネ。



 3月末、雛子との再会を楽しみに一足先に日本に帰ったヨーコはまだ知らなかった。

 朝哉がビビって雛子に真実を伝えられなくなる事を。

 同じマンションに住みながら雛子だけ送り届けた後の車内で、朝哉に罵詈雑言をぶつけまくる羽目になる事を。

 その1年後に、自分の大切な親友同士が夫婦となり、一緒にニューヨークに舞い戻る幸せな未来が待っているという事も。

 そしてニューヨークでは、ヨーコ自身にも新しい出会いが訪れるのも……。

 それはほんのほんの、たった1年後のお話。






*・゜゚・*:.。..。.:*・ .。.・**・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

フランスのお話終了です。
美人でお茶目で面倒見のいいヨーコ姐さんは私の理想の親友像です。

残りの番外編は、結婚式前と当日のイチャイチャ話、それからニューヨークに着いてからのお話をちょこちょこ……と考えております。
よろしくお願いします。
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