24 / 83
<< 番外編 >>
フランス旅行のお話なのデス (3)
しおりを挟むメディカルEXPOは、医療機器や実験器具、健康機器などを扱うメーカーが新商品の売り込みや新規販路の開拓のために一堂に会する国際的な大型企業展だ。
毎年150~160もの企業がブースを出して商品展示やデモンストレーションを行っていて、クインパスも病院や医療機関への営業のため精鋭メンバーを送り込んでいる。
今年はフランスのパリで3日間に渡って開催されている、その企業展の最終日。
ヨーコは雛子とカレンを伴って、会場に足を運んでいた。
『会場に到着。ヒナコはダークブラウンのミモレ丈シャツワンピースを着ています』
エッフェル塔から徒歩15分程の会場の前で写真を撮ると、すぐに朝哉に送信する。
『分かった。ありがとう』
短い返事。ヨーコと同様、いや、それ以上に朝哉は緊張しているのだろう。待ちに待った瞬間。
だけど声を掛けるわけにも見つかるわけにもいかないのだ。
朝哉が3日間ある企業展の最終日を指定したのは、その日だけ朝哉がオモテに出なくてもいいかららしい。
元々東京本社のスタッフがメインで朝哉は裏方だと言われていたのに、英語と中国語が流暢な上にスペイン語とフランス語も挨拶程度なら出来る朝哉を見て、チーフがデモンストレーションの役目を割り振ってきた。
顔がいいから客寄せパンダとしての期待もあったのだろう。
それでもどうにか頼み込んで、3日目の午前中だけは裏方に徹することにさせてもらったという。
顔が良くて優秀だと、本人が望まなくても表舞台に立つことを望まれてしまうものなのだ。
『一番手前の自動血圧計のブースで血圧を測ってもらってます』
『体重計に乗りました。ヒナコは101パウンドです。軽すぎですね』
『光学顕微鏡を見ています。クインパスのライバルですね』
ブースを移動するごとに朝哉に場所を伝える。あまりキョロキョロすると雛子に怪しまれるので普通にしているけれど、きっと朝哉は何処かからジッと雛子を見つめているのだろう。
『もうすぐクインパスのブースですよ』
そこで朝哉から久々の返事が来た。
『顕微鏡を覗かせて』
さすが大手だけあってクインパスのブースは大きめで、光学顕微鏡のコーナーと心臓カテーテルのコーナー、そして内視鏡手術の様子を映した大きな画面の前に最新型の内視鏡カメラ本体とモニターがドカンと展示してある。
「ヒナコ、顕微鏡デスヨ。覗いてみまショウ」
素直な雛子は何の疑いもなく目をつけて接眼レンズを覗き込む。
それを待ち叶えたように、ブースの後ろから朝哉がチラリと顔だけ覗かせた。
朝哉はこちらに向かって唇の前で「シッ」と人差し指を立ててから、ジッと雛子を見つめる。唇をグッと噛み締めて、目蓋を震わせて。
何も言わなくても、細められたその瞳が『愛おしい』と語っていた。
もういいじゃないか。
朝哉は十分頑張った。今までよく耐えてきた。
立派な営業成績を残した。もう専務になることだって決まった。
ーー会いたかったって、大好きだって声に出して言ってしまえばいいのに。
だけど彼はそれをしない。
凄く器用で何でもソツなくこなしてしまうくせに、雛子に関しては途端に不器用で臆病になるのだ。
目が合った。
朝哉は口角を少し上げて苦笑しながら、視線をまた雛子に戻す。
出来ることなら大きな黒い瞳を、長い睫毛を、小さくて赤い唇を見せてあげたいけれど、それは叶わないから……。
「ヒナコ、標本を変えますからそのまま目を離しちゃダメですヨ」
「はい」
ーートモヤ、せめて鈴の音のようなヒナコの可愛い声を聞かせてあげますからネ。
担当の男性がプレパラート標本を交換する。
ハウスダスト、アスベスト、ナイロン繊維。
標本が変わるたびに雛子に声を掛けて感想を聞いた。
「ヒナコ、何が見えますか?」
「なんだかガラスの破片みたいに見えるけど、これがハウスダストなのね」
「次はナイロン繊維ですヨ。見えてますか?」
「ええ、太い道路が交差してるみたい」
ーートモヤ、ちゃんとヒナコが見えてますか? 声が聞こえていますか?
自分にはこれくらいの事しかしてあげられないけれど……隠密として少しは役に立ててますか?
あと数ヶ月頑張るためのパワーは充電出来ましたか?
流石にもう引き延ばせない。限界だ。
朝哉をチラリと見る。
彼は「うん」と黙って頷いてから、顔の前で手のひらを合わせて、『サンキュー』と唇を動かした。
それからスッとブースの裏側に姿を消して行く。
ほんの2~3分だっただろうか。
このたった数分のためだけに、朝哉はどれだけの手間と労力とお金を費やしたのか。
だけど愚かだとは思わない。
たった数分。それでも彼が頑張るためにはどうしても必要な時間だったのだろう。
ーートモヤ、8月にはヒナコと一緒に日本に来るのデスヨ!
彼ならきっとやり遂げる。
8月には一緒の飛行機に乗って、仲良く連れ立って日本の空港に降り立つのに違いない。
『ヒナコ、お帰りなさい』
『驚きましたか? トモヤがアシナガオジサマだったのですヨ!』
『トモヤの秘書として一緒に働けるのデスヨ!』
ーーそう言って私が笑顔で2人を出迎えるのネ。
3月末、雛子との再会を楽しみに一足先に日本に帰ったヨーコはまだ知らなかった。
朝哉がビビって雛子に真実を伝えられなくなる事を。
同じマンションに住みながら雛子だけ送り届けた後の車内で、朝哉に罵詈雑言をぶつけまくる羽目になる事を。
その1年後に、自分の大切な親友同士が夫婦となり、一緒にニューヨークに舞い戻る幸せな未来が待っているという事も。
そしてニューヨークでは、ヨーコ自身にも新しい出会いが訪れるのも……。
それはほんのほんの、たった1年後のお話。
*・゜゚・*:.。..。.:*・ .。.・**・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
フランスのお話終了です。
美人でお茶目で面倒見のいいヨーコ姐さんは私の理想の親友像です。
残りの番外編は、結婚式前と当日のイチャイチャ話、それからニューヨークに着いてからのお話をちょこちょこ……と考えております。
よろしくお願いします。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。