婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

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フランス旅行のお話なのデス (2)

「ヒナ、こちらを見て下さい。撮りマスヨ～」

　カシャ！ カシャカシャ！

　遠くから、近くから。そしてあらゆる角度から写真を撮る。
　撮って撮って撮りまくり、そして送る。

『凱旋門の前で撮りました。これからシャンゼリゼ通りでランチデス。トモヤお勧めのオムレツを食べてから、マカロンを買いますヨ！』

ーー送信完了！……デス。

「ヨーコさん、マメにメールしてるけど、誰に送ってるの？」

　雛子に手元を覗き込まれて慌てて背中に隠す。

「オトモダチなのデス。フランスの景色を見せたいのデス」
「そう、ヨーコさんは友達思いなのね」

ーー友達思いと言うよりも、必死なトモヤがカワイソウで放っておけないというか、チ◯ルのためと言うか……。


「もうすぐヨーコさんともお別れだし、私も沢山写真を撮らなくちゃ。カレン、一緒に撮りましょう」
「私が撮りマスヨ」

「あら、駄目よ。ヨーコさんも一緒に3人で写らなきゃ。あっ、Excusez-moiエクスキューゼ•モア」

　覚えたてのフランス語で他の観光客に写真撮影をお願いしている雛子を見て、思わずキュンとしてしまう。
　うん、やはり可愛らしい。


　3月の第3週。ヨーコは雛子と従妹いとこのカレンと共に、3泊4日のフランス旅行に来ていた。

　ヨーコは3月末に日本のクインパス本社に転勤で、雛子は今年NYUを卒業後、8月には日本に帰国。カレンはアメリカの企業に就職。

　このメンバーで旅行をする機会ももう無いかも知れないな……と思うと、なんだか寂しくなる。


　朝哉に頼まれて始まった雛子との関係だけど、今ではそんなの関係ない。
　人形みたいにキュートで素直で優しいこのジャパニーズガールを、ヨーコは心から気に入っているし、なんなら朝哉以上に大好きだと思う。

　朝哉の計画が上手くいけば、9月からは一緒に朝哉の元で秘書として働ける。

　雛子とは一生お付き合いを続けて行きたいので、よその見知らぬ男に掻っ攫われないよう、朝哉には大いに頑張ってもらわねば……。

ーーそのためにもトモヤを応援しますヨ！ 

　それ以前に、今回の計画が雛子にバレないよう、細心の注意を払わねば……と気を引き締めるのだった。



『知り合いが持っているコンドミニアムを無償で貸してもらえるの』

　今回の旅行にはそう言って雛子を誘ったけれど、そんなのはもちろん嘘。
　春休みだけ貸し出されていた高級コンドを朝哉が借りてくれたのだ。

『格安の航空チケットがゲット出来たのよ』

　これも大嘘。春休みの繁忙期に半額以下でビジネスクラスの座席が取れるはずが無い。
　朝哉が正規料金を支払ってくれたのだ。

　雛子に払わせた半額分のチケット代は、そのまま彼女の食事代になる。

『ココは社会人の私が払いますヨ』
『観光ツアーにパックで申し込んでいるので余計なお金は必要ないのデス』
『ヒナコは自分のお土産代だけ持っていればいいのデスヨ』

　朝哉からお小遣いも貰っているから、レストランでの食事もオペラ座での観劇も、ぜ～んぶ最高の席で最高級のものを堪能出来た。
　これも全部雛子のお陰だ。


『トモヤ、パリは最高デス！ヒナコはピスタチオ味のマカロンがお気に入りデシタ！』

　カラフルなマカロンを写真に撮って送ったら、『マカロンはいいから雛子を写せ』と返事が来た。

　ぐぬぬ……注文が多い男だ。
　仕方ないから雛子がマカロンを「あ～ん」と口に放り込む瞬間を撮って送ってやったら、

「グッジョブ！最高！」

　ピコンとすぐに返信が来た。

　コイツはちゃんと仕事をしているのだろうか。ブースの準備そっちのけでスマホばかり見ているんじゃなかろうか。
　秋から本社の専務なのに大丈夫か？！

　続けてピコンと文章が届く。

『ここまで最高の旅行をプレゼントしたんだ。明日はちゃんと……分かってるんだろうな』

　ハイハイ分かってますよ。
　明日のほんの少しの接近のためだけに、朝哉はここまで大掛かりな準備をしたのだから。

ーートモヤがどれだけヒナコを愛してて、どれだけ頑張ってきたかも泣いていたかも知っていますからネ。

　雛子も好きだけど、朝哉のことだって好きなのだ。
　大好きな2人には結ばれて欲しい。そのための手助けをしたい……そうヨーコは思っているのだった。

　そして、前払いでもらった30個のチ◯ルチョコに報いるためにも……。

ーー明日は絶対トモヤにヒナコの笑顔を見させてあげますカラネ！

　握りこぶしを作って鼻息を荒くしているヨーコがそんな事を考えているとは露知らず、雛子は美味しいマカロンと紅茶を堪能しているのだった。