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裏 あしながおじさまは元婚約者でした
失われた婚約発表 side雛子
しおりを挟むサイト連載時および書籍版では朝哉目線だったエピソードを雛子目線で語っています。
父親の宗介が亡くなった時の話です。
ここから雛子の生活が徐々に暗転していくことになります。
*・゜゚・*:.。..。..。.:*・゜゚・**・*:.。..。.:*・*:.。.
4月の第二土曜日の午後、雛子は世田谷の自宅のリビングルームでソファーに座って寛いでいた。
いや、正確には寛ぐどころか朝からずっとそわそわしていて、家政婦の木村さんに「まだ時間があるのですから落ち着いてください」とソファーに座らされたばかりなのだけど。
今日は朝哉と雛子の婚約発表パーティーの日だ。
表向きは朝哉の21歳の誕生パーティーなのだが、その時に雛子も彼の隣に立ち、皆に婚約者であるとお披露目されることになっている。
正式な結納は月末に白石家で行うので、雛子が婚約者を名乗るのはややフライングではある。
それでも両家の間では、そして朝哉と雛子の気持ちはすでに将来を誓い合った婚約者で、その先には当然結婚までの道筋が出来ているので問題ない。
先月の雛子の誕生日には黒瀬家の面々が白石家を訪れ、今日のパーティーの打ち合わせをして行った。
その時に朝哉が、「本番は婚約パーティーの時だけど」と、雛子に婚約指輪を見せてくれている。
あの時こっそりと指にはめてもらった2カラットの輝きが、今日、正式に雛子の指に輝くことになるのだ。
「天国のお母様もきっとお喜びですよ」
木村さんがにっこりと微笑みながら、ロイヤルミルクティーの入ったティーカップを目の前に置いた。
「ええ。今朝、お仏壇に挨拶した時にね、お母さんの写真がいつも以上に嬉しそうに見えたの」
「そうでございましょうとも。ですが雛子様がお嫁に行ってしまわれたら、宗介様はお寂しくなりますね」
「そんな、結納もまだなのに、結婚なんて先の話だわ」
「何をおっしゃっているんですか、そんなのあっという間ですよ」
そんな会話をしながらロイヤルミルクティーを口に運んだところで、雛子は周囲を見渡した。
「そういえば、お父さんは?」
「宗介様は主寝室でお着替え中でございますよ。雛子様もそれをお飲みになったら出発の準備をいたしましょう」
「はい」
そのとき、ソファーに置いていた雛子のスマホが音を立てた。
画面を見ると白石工業からになっている。
白石工業からの電話なんて初めてだ。かけてくるとしたら社長である叔父の大介か社員からだろうが、相手が親会社の白石メディカ社長の宗介でなく雛子というのがどうも奇妙だ。
――お父さんの番号と間違えたのかしら?
首を傾げつつ画面をタップし耳に当てると、向こうから叔父の声が聞こえてきた。
やはり父と間違えたのだと思い、そう伝えようとしたとき……
「雛子か、今さっきお前の父親と仕事の話をしていたんだが、急に会話が途切れてしまったんだ。心配だから様子を見てきてもらえないか?」
「えっ……」
そのまま小走りに廊下を進み、父親がいるであろう主寝室に入る。
ドアを開けてすぐに目に飛び込んできたのは、電話機本体から外れてコードでぶら下がっている受話器と、その近くに倒れ込んでいる宗介の姿だった。
「お父さん!」
慌てて駆け寄り体を揺するも返答がない。
それどころか顔は蒼白で唇も色をなくしている。
――えっ!?
ヒュッと短く息を吸い、一瞬頭が真っ白になった。
けれど床に座り込んだまま、声をかぎりに叫びだす。
「きっ、木村さん! 木村さんっ、来てっ! 木村さん!」
そこからはほとんど記憶にない。
部屋に飛び込んできた木村さんが慌ててどこかに電話をかけ、救急車のサイレンが聞こえ……気づけば座敷に布団が敷かれ、そこには顔に白い布を被せられた父の遺体があった。
宗介の死因は心筋梗塞で、雛子が部屋に入ったあの時にはもう心臓が止まっていたのだという。
「黒瀬の奥様に電話がつながったのですが、用事がすみ次第駆けつけるとおっしゃっていました。用事って、当の雛子さんがいないのにパーティーどころではないはずでしょうに、なんて冷たい……」
木村さんがハンカチで涙を拭きながらそんなことを言っていた気がするけれど、今はもう深く考えることができない。
黒い制服を身にまとい、ただ呆然と座り込んでいた。
「ーーヒナっ!」
その声が聞こえた途端、雛子は弾かれたように顔を上げた。
ぼんやりとした脳内に、自分を呼ぶ彼の声だけが飛び込んでくる。
「とも……っ」
「ヒナっ!」
人混みをかきわけてきた朝哉が、雛子の名を呼びながら抱きしめてきた。
「ヒナ、遅くなってごめん。どうして、こんなことに……っ」
その途端、張り詰めていた糸がプツリと切れた。
「とも……朝哉っ、朝哉……っ、わぁーーーーっ!」
感情が堰をきったかのように溢れだし、雛子は朝哉にしがみつき、大声を出して号泣する。
その間、朝哉は何も言わず、ひたすら背中を撫で、抱きしめ続けてくれていた。
時宗と琴子が、「大変だったね」、「お手伝い出来ることがあれば言ってほしい」などと言葉をかけて帰っていった後も、朝哉だけはその場に残り、雛子の隣にいてくれた。
しかしそれも束の間のこと。
会社関係者が次々と帰っていったところで大介が朝哉の肩を叩き、申し訳なさそうに口を開く。
「悪いが朝哉くん、今日は仮通夜で、身内だけでお別れをする時間だ。部外者は席を外してもらいたいんだが……」
「叔父さん、彼は部外者では!」
「いいんだ、ヒナ」
叔父に反論しようとした雛子を朝哉が止めた。
「おっしゃる通りです。気がつかず、長々と失礼いたしました。また明日の通夜に改めて参列させていただきます」
一緒に立ち上がろうとする雛子を朝哉が制し、1人で座敷から出ていく。
その後ろ姿を見送っていると、雛子は途端に心細く感じ、どうしようもない不安に襲われるのだった。
*・゜゚・*:.。..。.:* .。.:*・゜゚・**・*:.。..。.:*・ .。.:
自分で書いておいてなんですけど、この辺りから雛子が可哀想すぎて、なろうに転載した時も、書籍化で改稿作業していた時も、毎回ここに来ると泣けて泣けて仕方がないんです。
いや、ホント、自分で書いているのに馬鹿みたいなんですけど、まだ高校生で16歳の女の子が、両親を失い、これから追い討ちをかけるように次々と全てを失っていくというのがあまりにも酷すぎるな……と思って。
更なる不幸、書きますけど。
こちらは書籍版ではなくサイト連載時のままで進むので、朝哉も手加減なしです。
鬼畜と罵ってもいいので、出来れば最後までお付き合いください。
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