雨に撃たれる意味

いとま

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女性

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傘は捨てた。それが正しいと思えたから。

5月某日、午前。対して早起きでもない時間に目が覚め世界の音に気付く。ベランダの縁や、コンクリート、近くの川へと突き刺さる
鋭い透明達。蛙は、生きてる喜びを五月蝿い
鳴き声で思い切り表現する。

スマートフォンを手に取り
止まっている連絡先に挨拶と、一言と、
どうでもいい内容を続けて送った。
あの人は返事をくれるだろうか、
疑心暗鬼と諦めを強く持ちその四角形を
裏返しにした。すると1件の通知。

「いいよ、いつものコンビニで。」

心臓がはち切れそうになりながらも
それなりの服を着て海月の雨守(あまも)り
は持たずに急いで向かう。

早く着きすぎてコンビニの狭い屋根の
軒下でイヤホンを付けて、音量を上げて
通知先の君の好きな歌を聞いていた。
新譜よりも、昔の方がカッコイイから
何十年の前の曲を聞く。君の色が出る。

もう2人が片耳イヤホンで聞くことが出来ない、幻の曲。無色透明の雑音。

俯いて蘇った記憶に蝕(むしば)まれる。
木の杭で体を貫かれるような
感じることの無い痛み。虚無感。

いつしか口を噤(つぐ)んで
我慢をすることしか出来なくなってしまった

手のひらが濡れた頭を包んだ。
死んだ目の首の傾げた君がそこに居た。

《どうしたの?急用?》

声が聞こえた。
あの日のように隣に立った時の距離。

何を伝えればいいか、伝えたことは
ちゃんと返ってくるのか。
そんな不安と撃ち付ける透明の刃が
世界に2人にしか居ないような
特別な空間へ、水溜まりの中に入るように
沈みこんだ。

君のことを愛しているの。

やっと出た言葉、そして絞り出した、

「一緒にいたい。」

叶わぬ切なる願いだった。

《ごめん。もう行くね。》

困った君が、私を置いて海月をさす。
私は後ろから抱きつく。

《危ないよ》

気休め程度の言葉をかけられた気がした。
私の目から流れるのは空からの雫なのか
心の中の洪水なのか、どちらか分からないほど潤いを纏い、そして壊れていた。

《家においで。》

聞くことを諦めていたその言葉。
気付けば開いた筈の透明な海月は
頼りない避雷針のように閉じられていた。

ずぶ濡れの私を抱き寄せて、立ち尽くした。

《家来たらさ、いつも通りにさ。》

前と同じようにお互いに温かい雨を
浴びる約束をした。雫の弾ける匂いと
君の匂い。求めていたの、ずっと。
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