黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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禁じられた夜 二

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 公爵は寝台の上で気をうしなっているアベルを見下ろしたまま、ドミンゴに告げた。
 ドミンゴはあわてて天幕から出ていき、しばらくして湯気をたてている桶をかかえて戻ってきた。
 その間、オルティスは公爵の側にひかえながら、アベルが目を覚まさないものかと待ってみたが、ぐったりとした身体は身動きひとつしない。
 ドミンゴが、洗いざらしの布をかるくしぼったものを手にして、アベルに近づく。アベルの従者だった彼は、いつもアベルに寄り添い、彼の身の周りの世話をしていたのだろう。当然のようにアベルの身体に触れる。
「ああ、待て」
 公爵がにやにやしながら制止の声をかける。
「身体を拭くには、あれを外してやらないとな」
 その言葉に、オルティスの胸の奥が疼いた。
 ドミンゴは伸ばしていた手をとめる。
「うう……ん」
 幸か不幸か、よりにもよって、このときになってアベルは意識を取り戻しかけていた。
「おお、姫君のお目覚めだ」
 覚醒しきっていないアベルは、ぼんやりとした目をしている。
 いまだ自分は夢のなかにいると思っているのかもしれない。じきに完全に意識をとりもどし、この現実がどんな悪夢よりもひどいと知るだろう。
 オルティスの心が軋む。
 囚われの姫君をまもる騎士のように勇敢に、目の前の権力者に立ち向かい、その魔手からアベルを救うことができたらどれほど幸福か。
 だが、そこにいるのは帝国有数の大貴族であり、この若さで国家の権をにぎり、女王の夫で女王とともに大国を共同統治している王の第一の寵臣である。どうあがいても一介の守備隊長に過ぎないオルティスがかなう相手ではない。
 そんなことを思っているうちに、アベルはすっかり意識をとりもどし、自分の周りにいる三人の男たちに恐怖と嫌悪の目をむけた。
「く、来るな!」
 寝台の上に身を起こして、アベルは叫んだ。
「なにを怯える、アベル? 汚れた身体を、きれいにしてやろうというのだぞ。さ、ドミンゴ、拭くものを持ってこい。今夜は俺がみずから拭いてやる」
 アベルの美しい顔がひきつる。
「さ、下がれ! 来るな、来るなと言っているのだ!」
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