黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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禁じられた夜 十

 ブラスは絵を指ししめした。否応なしにオルティスの目はそこへ吸い込まれる。
(この表情、たまらんぞ。嫌で嫌でたまらないのに、感じてしまう。そんな気持ちが伝わってくるようだ。伯爵は、向こうでとんでもないことを教え込まれたようだな)
(伯爵ではないだろう)
 そう言うのが精一杯だった。
(ははははは。俺が言っているのは、A伯爵のことだ。べつに、あの伯爵ということではないぞ)
 だが、ブラスはじめ、この絵を見た者は皆、A伯爵の絵にアベルをかさねるだろう。そして面白がり、喜ぶのだ。こっそりと長の夜の楽しみに夢のなかでアベルの痴態を文字どおり夢想するのだ。 
 オルティスはやり切れない気持ちになる。
 オルティス……。ナシオ=オルティス隊長……!
「なにをしている、オルティス、俺が呼んでいるのだぞ。こっちへ来い」
 オルティスは目の前の現実に引き戻された。
「は、はい」  
 公爵に手招きされ、歩をすすめると、視界にいっそうはっきりとアベルの姿態が入ってくる。
「俺だけだと物足りないらしい。そこでしっかり、この姫君の可愛い姿を見ていろ」
「ううっ!」
 アベルが絶望的な顔になって呻く。
 オルティスは断ることもできず、ただ言われたとおりに佇立し、麗人の陥落を見守った。
「はぁ……!」
「ほら、いつまで待たせるのだ。グラリオンの後宮では、喜んで卵を産み、アイーシャとかいう女を喜ばせたそうではないか?」
 アイーシャ……。その名は実名だったのか、とオルティスは思いだす。
 絵巻物には、たびたび王の側室としてアイーシャという女が出てくる。とてつもない毒婦であり稀代の妬婦とふとして描かれていた。だが、かなり美しい女としても描かれていた。事実、王の寵愛を得て、後宮ではかなり権勢をふるっていたというから、美人には違いないのだろう。
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