黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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グラリオンの夜、ふたたび 十

 いやしい欲望やゆがんだ劣情のために、人を、まして主を裏切りあざむくような人間の心理など、アベルにとっては百回生まれかわったとしても理解できないにちがいない。
「おまえは、おまえたちは、狂っている!」
 他に言う言葉もなく、吐き捨てるようにそう言ったアベルを見返すドミンゴの目には、もはやおそれはなかった。
「そうです。私は狂っているのです。あなたに出会った日から……、少しずつ狂いはじめ、今や完全に狂ってしまった。だが、私を狂わせたのは、あなただ」
「な、なにを……!」
 言葉は続かなかった。背後から激しく抱きすくめられたアベルは、驚きに一瞬あらがうことも忘れていた。
「ああ、あなたが……、あなたが私を狂わせたのだ! この美しい身体と顔と、声と、……高貴な魂で……!」
 押し付けられる身勝手な言い分にアベルは困惑しつつも、予想をこえたドミンゴのはげしい愛撫――と呼んでいいかどうかはわからないが――と、力強い腕に圧倒されてしまっている。ドミンゴは、公爵やオルティスの存在をわすれたかたのように、アベルを息もつかせぬほどに抱きしめた。
「や、やめ……」
「ああ、なんという美しい肌だ……。なんという素晴らしい身体。この芸術品のような美肉のなかに、あなたは人を、男を惑わせる魔性を秘めているのですね、アベル様。あなたは高潔な聖人の顔をした、とんでもない淫婦だ!」
 かなわぬ想いゆえに、常軌を越してしまった男は、執着のあまり恋しい相手を憎むようになっているようだ。この男は旧主を激しく恋慕しつつも、その異形の愛がけっして受け入れられることのない絶望に、ついには相手に憎悪すら抱くようになり、結果、アベルを裏切り、このような窮状にまでおとしいれたのだろう。
 ふと気づくと、公爵は腕を組んで、おもしろそうに二人の様子を見下ろしている。その様子はオルティスにはひどく狡猾で残忍に見えた。
(人を、もてあそんでいるのだ……)
 公爵のような人種から見れば、ドミンゴの気持ちを手玉にとり、彼を都合のよいように扱うなど、いともたやすいことなのだろう。飢えた犬に、敢えて遠くに肉を投げ捨て、走らせておもしろがっている悪童とおなじだ。
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