黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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淫夢のなかで 二

「言うな! もう言うな!」
「いいえ、今日は言います、アベル様。私は、あのとき、あなたの本性に気づいたのです。あなたは……あなたは、とんでもない淫乱だ」
 淫乱と言われて、アベルが息を飲んだ。
「ち、ちがう、ちがう! あれは皆、おまえを助けるためだったのだぞ!」
 可哀想にアベルの美しい瞳は悔しさと怒りに潤んで……、いっそう美しく光り輝いている。
「そうだ、あなたは私を助けるために……」
 先ほどからアベルを庇ったり貶したり、どうもドミンゴの言動はおかしい。やはりこの男はひたすら狂気の淵をめがけて歩いているようだ。
「そう、私を助けるために……」
 ドミンゴは茫然とつぶやく。
 この時代、狂人は珍しくないが、身近で見たのは初めてで、オルティスは驚きと好奇すら抱いてドミンゴを見ていた。
「あなたは……私を助けるために、木馬に乗ったのですね」
「よ、よせ!」
 木馬、という言葉にオルティスの背は強張こわばり、緊張した。ドミンゴの言う木馬というものが、けっして幼児の玩具でないことは気づいていた。
 なにより、悪友たちが勿体ぶりながら見せてくれた絵が全てを語っていた。
 オルティスが見たものは、木馬の絵だけであったが、それは卓越した技巧と彩色により、ひどく生々しく現実的に見え、あの絵を見ただけで極めたという者もいたほどだ。
(もっとすごい絵もあるが、初心うぶなおまえには目の毒だから止めておこう)
 そう言って笑っていた悪友が恨めしくなり、どうにかして自分で続きの書物を入手できないものかと、オルティスは本気で思ってしまったものだ。
「ああ、あのとき……あなたは、あの毒婦に命じられて、無理やり……あの見事な木馬にまたがった……。腕は鎖で戒められ、腰を宦官たちに支えられ、逃げることもできず、あなたは……」
 オルティスの方が、もう止めてくれ! と叫びたくなったが、それでいて心のなかのもう一人の自分は、続きを聞かせろ! と訴える。
「ああ、もうよせ! やめろ! やめろったら!」
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