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明けない夜 一
公爵が苦く笑った。
「いつも、思っていた。着ているものを剥いで、辱しめ、おまえを泣かしてしまいたいと。めちゃくちゃにして、今のように惨めな目に遭わせて泣かせてやりたいと、いつもいつも思っていたものだ」
「そんな……、そんなに私が憎いのなら、ひとおもいに殺してしまえば、それで済むではないか」
笑いながら公爵は、ゆっくりと首を左右に振った。
「そんな単純な話ではない。第一、誰がお前を憎いなどと言った?」
「い、今さっき言ったではないか!」
アベルの唇がわなわなと震える。のらりくらりとした公爵の態度は、いっそうアベルの神経をひっかくようだ。
「愚かだな」
公爵が身を揺らすと同時に、あたりに彼がつけている香がかおる。いや、室の片隅に置かれていた香炉からただよってきているのかもしれない。
香はグラリオンのものなのか、それとも別の異国のものなのか、あまり嗅いだことのない不思議な香だ。
「おまえは、本当になにもわかっていないのだな。俺がおまえを憎いわけがないではないか。幼少の頃に、おまえを一目見たときから、俺はおまえの崇拝者なのだぞ」
「よ、よくも、そんな空々しいことを……!」
アベルにとっては公爵の言葉は、たちの悪い揶揄としか聞こえないのだろう。オルティスですらそう思っている。
「本当だとも。いや、崇拝者というより恋の奴隷と言ったほうが正しいのか。おまえを想って、俺の少年時代はひたすら苦しみの連続だったのだということを、おまえは知りもしないだろう」
「な、なにを言っているのだ?」
真実、わけがわからない、というふうにアベルが困惑した顔になる。
「おい、こら、さぼるな。ほら、手を動かせ」
残酷な命を下しておきながら、公爵はぬけぬけとつづけた。
「おまえのことを想って、どれほど俺が煩悶したことか。おまえが、他の貴族や貴婦人と親しくしゃべっているだけでも、その夜は嫉妬のあまり眠れなくなったほどだ」
「いつも、思っていた。着ているものを剥いで、辱しめ、おまえを泣かしてしまいたいと。めちゃくちゃにして、今のように惨めな目に遭わせて泣かせてやりたいと、いつもいつも思っていたものだ」
「そんな……、そんなに私が憎いのなら、ひとおもいに殺してしまえば、それで済むではないか」
笑いながら公爵は、ゆっくりと首を左右に振った。
「そんな単純な話ではない。第一、誰がお前を憎いなどと言った?」
「い、今さっき言ったではないか!」
アベルの唇がわなわなと震える。のらりくらりとした公爵の態度は、いっそうアベルの神経をひっかくようだ。
「愚かだな」
公爵が身を揺らすと同時に、あたりに彼がつけている香がかおる。いや、室の片隅に置かれていた香炉からただよってきているのかもしれない。
香はグラリオンのものなのか、それとも別の異国のものなのか、あまり嗅いだことのない不思議な香だ。
「おまえは、本当になにもわかっていないのだな。俺がおまえを憎いわけがないではないか。幼少の頃に、おまえを一目見たときから、俺はおまえの崇拝者なのだぞ」
「よ、よくも、そんな空々しいことを……!」
アベルにとっては公爵の言葉は、たちの悪い揶揄としか聞こえないのだろう。オルティスですらそう思っている。
「本当だとも。いや、崇拝者というより恋の奴隷と言ったほうが正しいのか。おまえを想って、俺の少年時代はひたすら苦しみの連続だったのだということを、おまえは知りもしないだろう」
「な、なにを言っているのだ?」
真実、わけがわからない、というふうにアベルが困惑した顔になる。
「おい、こら、さぼるな。ほら、手を動かせ」
残酷な命を下しておきながら、公爵はぬけぬけとつづけた。
「おまえのことを想って、どれほど俺が煩悶したことか。おまえが、他の貴族や貴婦人と親しくしゃべっているだけでも、その夜は嫉妬のあまり眠れなくなったほどだ」
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