黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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明けない夜 二

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 公爵はまたほろ苦く笑った。この人でも、そんな表情をするのかとオルティスがやや意外に思うほどに真情が感じられる顔だった。ほんの一瞬だが。
「俺が恋多き男だとか言われ、つねに女遊びをくりかえしていたのは、本命が決して手に入らない故、自棄やけになっていたからだぞ。おまえのせいで、俺は帝国一の色事師なぞとありがたくない仇名を頂戴することになったのだ」
 恨みがましげに言いつつも、公爵の顔は愉快そうに笑っている。
「そんな……そんなこと……。勝手だ」
 そう言うあいだも手を止めることは許されず、アベルは哀切そうに眉をゆがめた。
「うう……」
 落花寸前の花……、いや、落ちて泥にまみれ踏みにじられ、それでいて尚美しさをうしなわない純白の薔薇か。
 誇りたかき気位たかいアベルにとって、この強制自慰の辱しめは耐えがたいものだろう。だが、
(伯爵……、身体が柔らかくなってきているような)
 オルティスはそらしきれない目で、アベルの肉体の変化を見ていた。
 限度を越したいたぶりのなかで、羞恥と恥辱に身を焦がしながら、無理強いに悦を引き起こさなければならいという、異常な状況は、この状況が異常であれば異常であるほど、潔癖なアベルのなかにひそんでいた複雑な官能を呼びおこすのかもしれない。
 アベルの表情に浮かぶのが、苦痛ばかりでないことを、おなじ男の本能でオルティスは気づきだしていた。
「ああ……」
「良いのか? ああ、元気になってきたな。それにしても、」
 わざとらしげに、公爵は言葉を切ったあと、大袈裟に両手をひろげた。
「なんと淫らな姿だ。アベル=アルベニス伯爵があられもない姿で、おんみずから慰めているのを見られるとは思いもしなかったな」
 下手な芝居を見せつけられているようだが、アベルは演技ではない。
「こ、こんな……私にこれほどの恥をかかせて……」
 恨みをふくんだ碧の瞳がほんのり赤く燃える。
 それを真っ向から見ている公爵にとっては、道端で宝石を拾ったようなものなのだろう。いっそう相好をくずした。
「ゆ、許さない……! ぜ、ぜったいに許さない!」
 いよいよ昂ぶってきたらしい。アベルの頬はますます赤く映え、唇からは言葉とともに、どこか甘い吐息がこぼれてくる。
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