黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
67 / 184

異形の娼婦 四

 公爵の遠慮のない笑い声がひびく。おそらく幕外にも響いているだろう。
 バルバラを真似るように、公爵もまたのけぞって笑った。
「いやいやながらも、下僕の命を救うために、心優しく気高き伯爵は、異教徒たちの前で腰を振り、泣きじゃくりながらも膝を屈し、尻を落とし、白い頬を涙で濡らしつつ、むごい命令を果たすべくつとめた……。ああ、なんと美しい、哀れな伯爵。故国にあっては、千紫万紅せんしばんこうの花園に咲く大輪の白薔薇とたたえられた美貌の貴公子は、今は気高き殉教者となりて、ふるえながら、尻を突き出し、野蛮人たちの見守るなか、ついにはその可憐な後ろの蕾をひらき、卵を産み落とし……と。傑作だったね。ここを読むたびに、笑ってしまって、司教に叱られたよ。せっかくの気分が台無しになるだろうと。でも、笑わずには読めるか?」
 甲高い笑い声が響く。まぎれもなく女の声だ。
「まったくだ」 
 しばし、二人の狂人は、哀れな麗人をはさんで、狂気めいた笑い声をあげた。
 その嘲笑を聞いているのか、いないのか、アベルの白い肌は青白く映える。
 オルティスは不安になってきた。
 怒りをとおりこして、アベルは感情がまた麻痺している段階にいってしまっているのかもしれない。
 今までにも幾度か、無言で無表情になるアベルを見たことがあるオルティスは、不吉で不穏なものを感じずにいられない。
「おい、なにをむっつり黙っているのだ? 感想を聞きたいな」
 公爵は笑いつつも、顔にはかすかに怒りが見える。
 アベルは無言のままだ。
 どういうわけか、アベルが今のように、まるでそこにいる公爵を無視するかのように、何も言わず反抗もせず、動揺も見せず、鉄面皮に徹すると、公爵は機嫌が悪くなり、そのあとはいっそう残酷になるのだ。
 逆にアベルが怒りをあらわにし、素の感情のままに、公爵を罵ったり、抗ったりすれば公爵は満足を得て、機嫌が良くなり、そのあとはアベルの待遇もましになるのだ。
 手足についた縄のあとに薬を塗ってやったり、汗をぬぐってやったり、半ば無意識のアベルの口元にみずからの口で水をふくませてやったりと、こまごまと公爵がアベルの世話するのを見てオルティスは仰天したことがある。
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

少年達は吊るされた姿で甘く残酷に躾けられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。