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魔窟の夜 六
「数日後には、五歳年上の姉が餌食になった。母は泣いて跪いて嘆願した。頼むからやめてくれ、娘たちにだけは手を出さないでくれ、とね」
気の毒な夫人の悲鳴がオルティスの耳に響いてきそうだ。
「次の日には、三歳年上の姉もやつらの毒牙にかかった」
三歳上ということは……。当時、バルバラは六歳だと言っていたから、九歳となる。
苦く笑う横顔には、一抹の……しかし心からの悲しみがうかがえて、嘘を言っているようには思えない。
六歳の子どもが、父と別れ、目の前で母や姉たちを凌辱されるのを見ることになったとは。
あまりのおぞましさに、オルティスは背に冷汗を感じた。
「ひどいときは、母、姉二人がいちどに強姦されるのを見たこともあったさ。奴らに呼ばれていくとき母は目を閉じているように、けっして見てはいけないと命じたけれど、六歳の子どもがその通りに出来るわけもない。それにいくら目を閉じていても、聞こえてくるのさ、姉たちの泣き声が、悲鳴が、奴らの笑い声が。……早くしろ、次は私だ、という男の声がね」
ふと見ると、アベルは今の自分の身の上もわすれて、バルバラの顔を凝視している。その人形のように美しい顔は、一見、場違いなほど冷静に見えるが、目には驚愕が浮かんでいる。
「……な、名は? その男たちの……司教といったな、その司教の名は?」
ふるえる声で問うアベルに、バルバラは素っ気なくこたえた。
「カランサ、といったかな」
わざとぶっきらぼうに言うが、その顔には、今もって隠せない怨念が見えた。
しかし、バルバラの表情よりも、アベルとオルティスはべつのことに驚き、同時に息を飲んでいた。
カランサ大司教――。
その人こそ、異教徒の疑いをかけられ、最後までそれを否定して獄死した悲劇の聖職者である。
「う、嘘だ! カランサ大司教にかぎって、まさか、そんな……」
アベルは困惑と動揺をかくそうともせず、言いつのる。
そんなアベルに冷たい一瞥をくれて、バルバラは馬鹿にしたように顎をそらす。
気の毒な夫人の悲鳴がオルティスの耳に響いてきそうだ。
「次の日には、三歳年上の姉もやつらの毒牙にかかった」
三歳上ということは……。当時、バルバラは六歳だと言っていたから、九歳となる。
苦く笑う横顔には、一抹の……しかし心からの悲しみがうかがえて、嘘を言っているようには思えない。
六歳の子どもが、父と別れ、目の前で母や姉たちを凌辱されるのを見ることになったとは。
あまりのおぞましさに、オルティスは背に冷汗を感じた。
「ひどいときは、母、姉二人がいちどに強姦されるのを見たこともあったさ。奴らに呼ばれていくとき母は目を閉じているように、けっして見てはいけないと命じたけれど、六歳の子どもがその通りに出来るわけもない。それにいくら目を閉じていても、聞こえてくるのさ、姉たちの泣き声が、悲鳴が、奴らの笑い声が。……早くしろ、次は私だ、という男の声がね」
ふと見ると、アベルは今の自分の身の上もわすれて、バルバラの顔を凝視している。その人形のように美しい顔は、一見、場違いなほど冷静に見えるが、目には驚愕が浮かんでいる。
「……な、名は? その男たちの……司教といったな、その司教の名は?」
ふるえる声で問うアベルに、バルバラは素っ気なくこたえた。
「カランサ、といったかな」
わざとぶっきらぼうに言うが、その顔には、今もって隠せない怨念が見えた。
しかし、バルバラの表情よりも、アベルとオルティスはべつのことに驚き、同時に息を飲んでいた。
カランサ大司教――。
その人こそ、異教徒の疑いをかけられ、最後までそれを否定して獄死した悲劇の聖職者である。
「う、嘘だ! カランサ大司教にかぎって、まさか、そんな……」
アベルは困惑と動揺をかくそうともせず、言いつのる。
そんなアベルに冷たい一瞥をくれて、バルバラは馬鹿にしたように顎をそらす。
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