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魔窟の夜 八
「母の絶望的な顔、忘れられないね。助けたたくとも自分も強姦されているのだ。男にのっかられたまま、必死にカランサに訴えていたのさ。その子だけは、その子だけは、許して、って。イサベル、イサベル……、とね。母の俺を呼ぶ声が、今でも耳にこびりついている」
では、この女の本名はイサベルらしい。
過激な話の内容もさることながら、バルバラの幼名がイサベルだということにオルティスは気を引かれた。アベルも、奇妙な表情を見せている。
呼び方はバルバラの祖国の発音なのだろうろうが、帝国の女王と同名ということになる。
「……母親は死んだのか?」
「父が火刑にされた話を聞いた翌日、首を吊った。あんたはご満足だろう、伯爵? 俺たち異教徒は神の敵だからな」
こみあげてくる湿っぽいものをかき消すかのように皮肉げに言うイサベル……バルバラの顔は不敵さに充ちているが、奇妙に美しい。
「残された姉たちと俺は娼館に売られた。それもあの偉大なカランサ司教の指図さ。汚れた娘たちにはふさわしいとね。そうやって略奪した我が家の財産や、俺たちを売った金であいつは私腹を肥やしていったのさ。本当にあんたたちのいう神がいるなら、あいつの最期にだけは納得がいくね」
姉たちはその後どうしたのか、とオルティスは興味を引かれたが、自分は口をはさめる立場でないことを思い出して、黙っていた。
「なぁ、気になるのだが、おまえ……、ずっと訊きたかたっただが」
公爵は腕を組みなおした。
「おまえ、カランサ司教の失脚に一枚噛んでいるのではないか?」
公爵の半ばふざけたような、半ば真面目な顔と口調に、アベルのみならずオルティスも驚いた顔になってしまった。
「やっぱり、あんたはするどいね、公爵」
くくくくくく……。悪魔に魂を売った娼婦は凄絶な笑みを浮かべた。
「そうさ。やつの側近の審問官を誘惑して、奴が異教の神をあがめていると密告させたのさ。その男もカランサには含むところがあったらしくてね、すぐに俺の頼みを聞いてくれた。次の司教の座も狙っていたようだ」
紅い唇から漏れる笑声は、残酷さをふくんでいるのだが、ふしぎと小気味良い。
バルバラの話が真実なら、たしかにカランサ大司教は、悪辣な人物のようだが、異教徒の疑いにかんしては無実らしい。国中を騒がした事件の真相を聞き、オルティスはすこし興奮した。
では、この女の本名はイサベルらしい。
過激な話の内容もさることながら、バルバラの幼名がイサベルだということにオルティスは気を引かれた。アベルも、奇妙な表情を見せている。
呼び方はバルバラの祖国の発音なのだろうろうが、帝国の女王と同名ということになる。
「……母親は死んだのか?」
「父が火刑にされた話を聞いた翌日、首を吊った。あんたはご満足だろう、伯爵? 俺たち異教徒は神の敵だからな」
こみあげてくる湿っぽいものをかき消すかのように皮肉げに言うイサベル……バルバラの顔は不敵さに充ちているが、奇妙に美しい。
「残された姉たちと俺は娼館に売られた。それもあの偉大なカランサ司教の指図さ。汚れた娘たちにはふさわしいとね。そうやって略奪した我が家の財産や、俺たちを売った金であいつは私腹を肥やしていったのさ。本当にあんたたちのいう神がいるなら、あいつの最期にだけは納得がいくね」
姉たちはその後どうしたのか、とオルティスは興味を引かれたが、自分は口をはさめる立場でないことを思い出して、黙っていた。
「なぁ、気になるのだが、おまえ……、ずっと訊きたかたっただが」
公爵は腕を組みなおした。
「おまえ、カランサ司教の失脚に一枚噛んでいるのではないか?」
公爵の半ばふざけたような、半ば真面目な顔と口調に、アベルのみならずオルティスも驚いた顔になってしまった。
「やっぱり、あんたはするどいね、公爵」
くくくくくく……。悪魔に魂を売った娼婦は凄絶な笑みを浮かべた。
「そうさ。やつの側近の審問官を誘惑して、奴が異教の神をあがめていると密告させたのさ。その男もカランサには含むところがあったらしくてね、すぐに俺の頼みを聞いてくれた。次の司教の座も狙っていたようだ」
紅い唇から漏れる笑声は、残酷さをふくんでいるのだが、ふしぎと小気味良い。
バルバラの話が真実なら、たしかにカランサ大司教は、悪辣な人物のようだが、異教徒の疑いにかんしては無実らしい。国中を騒がした事件の真相を聞き、オルティスはすこし興奮した。
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