黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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心砕けて 八

「どれほど、夢に見たことか」
 公爵は、オルティスが驚いたことに、アベルの胸に顔をうずめた。
「んっ……」
 アベルがふるえたのは、嫌悪よりも困惑だろう。
「ああ……この白い肌に顔をうずめたいと、どれほど願ったことか……。諦めようと、どれほど思ったことか。それでも諦めきれなかった。運命は俺に味方したのだ。おまえが……、おまえの身体がこれほどまでに変わるとは……」
「や、やめろ! 言うな!」
 アベルが怒りでわなわなと震えた。
「わ、私は変わってなどいない。ど、どれほどおとしめられても、私は私だ!」
「ああ、そうだとも。おまえは、おまえだ、アベル。俺に胸を揉まれて喜んでいるのも、まぎれもないアベル=アルベニス伯爵だ」
「なっ……!」
「本当に、匂うように色っぽいな。別荘に連れていけば、毎晩こうして俺がいたわってやるぞ。むろん、客たちをもてなすために仕事をしてもらうが、終われば、羽毛を詰めた絹の褥で大切にあつかってやる。宝石でも美しい晴れ着でも、いくらでも買ってやるぞ。それこそ、本当に姫君のようにだいじにだいじにしてやる」
「よ、よせ!」
 アベルの顎に手をかけると、公爵がいとおしげに頬に接吻をする。
「ああ、怒った顔も可愛いぞ。きっとおまえは毎晩怒るだろうな。そんなおまえを道具で苛めてやったら、どれほど楽しいだろう。木馬に乗せてやるぞ。卵をふくませ、廊下や階段を歩かせたら、おまえはどんな顔をするのだろう。想像するだけで今からゾクゾクする」
 アベルの美しい顔が、怒りに異国の魔神のように恐ろしげに凍りつく。
「よ、よくも……! よくも、そんなことを!」
 公爵はもはやアベルの言葉など聞いてもいない。これから先の理想の日を夢想して、幸福感に酔いしれているのだ。
「俺の長年の願いがすべてかなう。……夢なら永遠にさめないでほしい」
 ふたたび白い身体に顔をうずめる。
 アベルという美しくもはげしい荒海に、後先かえりみず突進していく船のようだ。この船によって乱されるのは海なのか、海によって船が呑み込まれてしまうのか。誰にも判断できないだろう。
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