黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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月夜に見る夢 三

 にやにやといやらしく笑いながら言う公爵の尻馬に乗るように、エンリケは口をはさんだ。
「グラリオンの王や宦官たちが忘れられないのかもしれませんよ。絵の伯爵は、本当に楽しそうだった。悔しいかな、東方の男たちは帝国の男たちより、楽しませ方のコツを知っているようですな」
 このとき、初めて公爵の顔から余裕の笑みが消え、エンリケは内心満足した。
 自分の言葉によって、この不敵な権力者の感情を一瞬でも揺るがすことができたのだ。
「ほう。そう言われては立つ瀬がない。どうかな、アビラ伯、このじゃじゃ馬を、今宵はあなたが躾けてやれば?」
 怒気が含まれた声で、公爵が挑発するように言う。エンリケは引き下がらなかった。
「それは望むところですな」
 エンリケは実をいうと勝負事が好きでない。
 おそらく、御前試合でアベルに負けた衝撃から、敗北することに異常に恐怖心を持つようになったからかもしれない。口に出しては絶対に人に言えないが。
 普段のエンリケなら、喧嘩を売られれば言葉巧みにかわして逃げるし、無傷で逃げることこそ勝利だと思っているが、今はこの勝ち負けのかかった賭け事に、どうしても退く気がしない。
「では、遠慮なく。伯爵、こんどの相手は私が勤めましょう」
 まるで舞踏の交代を告げるように、エンリケは気取った言い方をした。
「よ、よせ、来るな! 来るなと言っているのだ!」
 激しく手で肩をたたかれても、エンリケは怯まなかった。
 先ほどの行為の疲れか、アベルの抵抗も弱々しく、正面に来たエンリケを撃退する術もなく、アベルはひたすら叫びつづけた。
「いやだ! いやっ」
「しっ、お静かに。誰かがきてこの様子を見たらどうするのですか?」
 ほぼ裸にちかいアベルは分が悪い。
「エンリケ、よせ!」
「おお、私の名を呼んでくだった」
 伯爵であるアベルに対しては、エンリケは礼儀を守らなければならない。言葉遣いは丁寧だが、手の動きは弱めなかった。
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