黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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月夜に見る夢 八

「あぁ……」
 アベルの切ない吐息まじりの声に、エンリケの脳裏に、あのときの男娼の姿が浮かぶ。
 夜の街で出会った行きずりの街娼だった。
 エンリケはそういう相手とも遊ぶことがあったのだ。
 夜霧のなか、客を待ってたたずむ街娼に、ふと気を引かれて馬車のなかに招いたのだ。女の装いをしていたが、男だということはすぐわかった。異装行為は、見つかれば投獄されるが、それでもそういう人種は規律きびしい帝国にあってさえ絶えることはない。
(名は……なんといったかな)
 アナ……。思い出した。たしか、そう名乗っていたが、女性名なので、勿論偽名だろう。
 出会ったばかりのエンリケの前に跪き、股間に顔をうずめた一夜だけの情人の顔が目にうかぶ。
 舌技は素晴らしかった。エンリケは恥ずかしいほどあっけなく弾けたのだ。
 しばらく馬車を走らせて、もう一度楽しみ、それからアナを拾ったあたりへもどって、金貨を一枚あたえて下ろした。エンリケはこういうときお大尽ぶって必要以上に奮発したりしない。そんなことをすれば、つけこまれて身元をさぐられかねないからだ。
 アナとはその後会うことは、勿論なかった。深くヴェールをかぶっていたので、顔もよく見なかったが、目元はなかなか整っており、美しい顔立ちだったと思う。今は印象だけがぼんやり思い出せる程度だ。それだけの相手だった。だが、アナのあの卓越した舌技だけは忘れられない。
 自分をくわえこみながら、時折かすかに見せた辛そうな表情も。
 今、自分は、あの霧の夜に得たのとおなじだけの快楽をアベルにあたえられているだろうか。つい、自問してしまう。
「ううっ、うううっ、……くっ……!」
 アベルの声は、痛みに苦しみ、必死に耐えようとしている哀れな患者のようだった。
 だが、それでも、つづけていると、やがて呻き声にはつやっぽいものが混じりだす。
 アナがしたように、軽く、歯をかすかに当てたりしてみる。
「いやっ、」
 先端を舌でつつく。
 時折りは指を添えたりもする。
「はぁ……! ああっ、あああっ」
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