黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔女二人 八

 背筋が凍り付くような残酷なことを言われ、アベルはとうとう嗚咽した。
 その後ろすがたどう思ったのか、
「ああ……、なんて可愛いの。たまらない……」
 感極まったように呟き、アイーシャは身をかがめてアベルの背に頬を寄せた。
 上半身は薄絹をまとったままなのアベルの背に、布ごしに接吻する。
「好き、好きなのよぉ」
 物狂おしげに、うめくように女は言う。
 いったい、この女にとって、人を好きになるとは、どういうことなのだろう。
 相手を苦しませ、貶め、痛めつけることが、この女の恋情の証しなのだろうか。稀にそういう人種も、この神に愛された国にいることを、バルバラは知っていた。
「は、はなせ……!」
 男女逆転したかのような図である。
 まさにアベルは今、アイーシャという名の悪党に凌辱される寸前の姫君である。
「よ、よせ……!」
 背後から、あらゆて手管を尽くしてアイーシャはアベルを追い詰める。
「ううっ、うううっ、うう……」
 殺されかけた小動物のような悲痛で儚い声をあげ、アベルはふるえつづけた。

「はぁ……」
 アベルの悲し気な吐息が室にこぼれる。
 周囲の誰かも息を吐く。さざ波のように吐息の波が室を満たした。
 その波が引くのを見計らったかのように、アイーシャは勝ち誇った顔で顔をあげた。
 堰を破られたアベルは、惨めな敗北のすがたをさらしている。
「ねぇ、どう? 淫乱女の手管も、そう捨てたものではないでしょう?」
 ぐったりと床に倒れこんだアベルからは、、今は両脇をかためていた宦官たちの手も離れている。
 閉じた瞼から頬へと、玻璃の涙がぽつり、ぽつりと滴っている。
「感想はないのかしら? 凄かった、とか、こんな気持ち良くなれたのは初めてだとか。ねぇ……」
 くすくすと笑うアイーシャの様子は、やはり常軌を超えている。
「ああ、陛下と、いえ、前王としたときよりも、ずっといいわぁ」
「廃王はうまかったのか?」
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