黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔性 一

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 大広間には三十人ほどの客が集まっていた。
 今宵は東方風にという趣向で、床上に絨毯を敷き詰め、そこに花や蝶、蔓草模様の刺繍がほどこされたクッションが円のように置かれ、客たちは慣れない姿勢でクッションにもたれたり座り込んだりしていた。
 客たちの装いもそれぞれで、帝国風のドレスをまとった女性もいれば、控えの間にいた召使たちのものと似た異国の衣をまとった貴族もいる。
 楽士たちが、帝国にはない音楽を奏で、人々の意識を遠い世界へと導いていく。
 客たちは祖国とグラリオン、昼と夜、表と裏のあいだを行ったり来たりしていた。
 給仕たちがなるべく音をたてないように静かに酒や肴をはこぶ。彼らは先ほどのアベルとおなじく、身体が透けて見える薄衣いちまいに、裸足だった。
 剝きだしの足が行き交うことに、最初に客たちは驚き困惑したが、やがてはもてなされる美酒や、香炉からただようかぐわしい芳香、楽士のつくりだす妙なる音楽に、うっとりと夢見心地になっていく。
 彼らは今、公爵が別邸のなかに作りだした、小さな異界に迷いこんでしまっているのだ。
 彼らは気づいていなかった。
 酒も香も音も、すべては彼らを迷わせ、籠絡させるために用意された餌であることに。
 音楽はやや速くなった。
 聞く者の心を躍らせる激しい音になる。
 やがて、広間の扉の向こうから、きらびやかな衣をまとった女たちが一列になってあらわれた。
 先頭にいるのはアイーシャだ。華やかな美女の登場に、がぜん広間の雰囲気は熱くなる。
「皆様、今宵はようこそこの《聖なる宴》に」 
 アイーシャは堂々と、だが、ほのかに媚態を身体から匂わせ、帝国の貴族たちに挨拶する。
「わたくしは、かつてはグラリオンの後宮に飼われた名もなき女です」
 口調には悲しげな響きがあるが、本当ではないことに誰もが気づいていた。
「祖国が滅び、この地には奴隷として売られて参りましたが、そんな私に、公爵はたいへん優しく接してくださいました。感謝しております。今宵は、つたないものですが、公爵への感謝をあらわすために、私の踊りをご覧いただきたいと思っております」 
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