黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔性 八

「ああっ、あああっ! あー!」
 獣のような声をあげて、アイーシャが背を伸ばす。
 背後の宦官が抱きしめた。
 苦しげに眉を寄せ、背後からアイーシャを抱きしめる宦官の表情に、エンリケは奇妙なものを感じた。
 この宦官、どうやらアイーシャに気があるようだ。
 この淫猥な行為も、彼にとっては苦痛ばかりではないらしい。だが、このあとどうやって己をしずめるのか。
 勿論エンリケは宦官ではないから、彼らの肉体の摂理はわからないが、男性器を喪失しても女体に欲望と興味を持っていることが、滑稽で浅ましくもあれば、どこか哀れなものを感じた。
「あ……んん」
 アイーシャの崩れる身体を抱きしめる背後の宦官の顔には、満足感がにじみでている。
「次は、いよいよ……ね」
 近くの席から、先ほどの男女の会話が聞こえてきた。
「ああ。ほら、あらわれたぞ」

 屠殺場へ引かれていく家畜を見るような思いで身を乗り出していたエンリケは、視界に入ってきたものに目と心を奪われた。
 いったん乱された衣は、今はもとどおりに身に着けてはいるが、やはり裸以上に淫らである。
 全身に夕日の色にも似た薄霞をまとった姿は、どこか現実ばなれした幻想的な美しさをあらわしている。
 両脇を異国人の宦官にはさまれ、美しい顔をこわばらせ、一歩、一歩、玻璃板の上をあるくような足取りで進んでくる姿は、悲壮の一言だ。
 白い肌はいつにもまして白く、青く見える。その青白くなめらかな首あたりに黄金の髪が散らされている様子は、なまめかしいことかぎりない。
 アベルが近づいてくるたびに、これは現の光景なのかとエンリケは内心で疑った。
 アベルが動くたびに、裸足の足首に薄紅色の裾が揺れる。
 見事な刺繍模様が波打ち、アベルの壮絶な美しさに、いっそうの華を添える。 
「ああ、いつ見ても絵のようだな」
「信じられないわ。あんな、あんな格好を伯爵が、」
「しっ、ここでは言ってはいけない」
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