黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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仇花開花 二

 女の問いにはこたえず、男は笑いつづける。
 エンリケは胸が悪くなってきた。
 善人でもなし、正義感など持ち合わせていないくせに、どうしてこうも不愉快になるのか。たまらなく公爵が憎く、得意げにしゃべっているアグスティナも恨めしい。
(すべて、消えてしまえばいい!)
 公爵もアグスティナも、アイーシャという女も、客たちもすべて消えてしまえばいい。そして、自分とアベルだけが残れば……などと愚かなことを考えてしまう。
「では、今回は、おまえに頼もうかしらね」
 アグスティナは宦官の一人を指差した。
 別の宦官が革紐を持ってきて、彼にわたす。
 これから何をするのか、エンリケは予想がついた。
 指名された宦官は喜び勇んで、黒々とした革紐をおのれの腰に結びつける。
 先ほどアイーシャの相手をした宦官と同じように、股間に人工の性器を取り付けているのだ。
 客たちはそわそわしながら、その様子を見ている。
 異様な熱気に満たされた大広間のなかで、唯一アベルだけは血の気が引いた顔で、準備をしている宦官を凝視している。
 アベルも当然気づいているのだ。色黒で大柄な筋骨隆々とした異国の閹人が、これから自分を犯すのだということを。股間の醜悪な道具をつかって。
 その様子をすべて、あますことなく客達に見られることになるのだ。
 花びらのような唇は、わなわなと震え、幾度かひらいたが、言葉をつむぐことはなく、やがて諦めたように一文字にむすばれた。
 いや、諦めたのではなく、これからの過酷な運命に立ち向かう決意を見せて、唇は結ばれたのだ。
 叫ぶことも悲鳴をあげることもなく、まして許しを乞うことなどなく、ただ唇は引き結ばれ、アベルの意志の強さを示している。
 アグスティナは感心したような顔になった。
「良い覚悟ね。さすがはアルベニス……、いえA伯爵だわ。さぁ、今宵は、客人たちにグラリオンの夢を見せてあげてやるといいわ。ここにいる人達は、私もふくめて〝A伯爵物語〟の愛読者よ。あんな素晴らしいものをこの目で見られるなんて、なんて幸運なのかしら」
 アグスティナは準備をし終わった宦官に目をやる。
「まぁ、宦官なのに、随分良いものを持っているわね。ご覧なさい、伯爵。大きすぎず、小さすぎず、ちょうどいいぐらいよ」
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