黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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仇花開花 十

 アベルの顔は、いまや苦痛よりも、迫りくる快感と戦っているようだ。
 歪んでいた眉はやわらかい線を描き、頬から顎、首筋と、なめらかな肌はうっすら汗を弾く。なまめかしい、の一言だ。あふれんばかりの嬌艶さは、見る者の心をゆさぶる。
「おおっ、おおうっ、うぉっ!」
 どういった肉体の摂理なのか、ロロは本当に感じているようだ。
 今、彼は失くしたはずの男根で、アベルという異教徒の貴人を犯している。それは彼にとってはめくるめく時間なのだろう。
「おおおっ、おおっ!」
 ロロの顔は、喜悦に満ちている。いったい彼にとって何年ぶりなのか、いや、もしかしたら生まれてはじめて味わう性の絶頂への道のりを歩んでいるのだ。
 きつくしかめられた眉は苦痛にちかい快感をあらわしている。ぶあつい唇は半開きになり、唾液が顎までこぼれている。
 ロロの腰の動きにあわせて、アベルも震える。
「よ、よせ! ああっ、嫌だ! 嫌……!」
 奴隷宦官に、淫らな道具で犯される麗人の姿。これも素晴らしい官能図である。
 ドミンゴなら、涙をながして喜びいさんで絵にするだろう。
 いつから始まっていたのか、楽士たちの奏でる音楽が、ひどく淫靡に響く。
 東方の、閨房の恋人たちの気をたかめるために、あるいは妖しい宴の雰囲気を盛りあげるために奏でられる誨淫かいいんの曲である。帝国人の耳には聞き慣れないが、すんなりと、心地良く響いてくる。
 木馬上での痴態と、音楽に刺激され、触発された客のなかには、連れとあたりはばからず抱きあったり、給仕の召使を抱きよせ、強引な真似をしたりする者もいる。
「おおおーっ!」
 ロロが獣のような声をあげる。
 彼の幻の男根が弾けようとしている。
 アベルは啜り泣いた。
 この信じられない異常な状況で、アベルもまた兆してしまっていることを、隠せない。
「ご覧なさい、A伯爵はすっかり楽しまれていらっしゃるわ!」
 アグスティナの勝ち誇った声が広間にこだまし、客たちの笑い声が追うようにつづく。
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