黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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仇花開花 十

「おうっ、おうっ、おおおお!」
 ロロのゆがめられた顔に、汗ではなく光るものがある。
 もはや味わうことはないと諦めていた感動と感触を、いま彼は経験しているのだ。
(愚劣、と吐き捨て笑うことはできない……かもしれないな) 
 みずからも昂ぶりはじめながら、エンリケは苛立ちを忘れて、ついそんなことを考えてしまう。
 エンリケは勿論経験したことはないが、男性としての象徴をなくすということは、想像を絶する恐怖と苦痛と恥辱なのだろう。男が男でなくなるなら、いったいなんのために生きるのだろう、と思わずにいられない。
 そして永遠になくしてしまったはずの象徴を、仮の形で手に入れ、けっして味わえないはずの快楽を、今、奇妙なかたちで追求しているロロを、笑うことはできない。
 そうこうしているうちにも、ロロの動きは弱まることなく、その動きにあわせるように、アベルを支えている二人の宦官はアベルの身体を揺らす。
 アベルは今や宦官三人に嬲られているようなものだ。
「あっ……」
 右側の宦官の手が離れた瞬間、アベルは必死に木馬の首にしがみついた。なだめるように、右側の宦官がアベルの肩を撫でる。
 ロロがいっそう激しく腰を突き出す。
「どぉぉぉぉぉぉ!」
「あっ、ああああっ!」
 ロロのあとにつづいてアベルの声が響く。
 客たちは固唾をのんだ。

 音色は止んでいた。
 二人は、一歩あけてそれぞれの階段を駆け上ったようだ。
「は……ああ……」
 アベルを抱きしめ、ロロが感嘆の声を吐く。
 おそらくロロは、通常の男が感じる快感の、十倍もの快楽を感じているのだ。感動も十倍だろう。
 そして、アベルの方は――。
 アベルの白い頬に、涙があふれた。
 落花無残の一言である。
 だが……、半ば伏せられた目も、濡れた頬も、常にもまして、妖しいほどに美しい。
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