黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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最後の夢 二

 しなやかな指が床を指す。
 エンリケは我知らず、アグスティナの傍へ、つまりアベルと向かいあうところまで進んでいた。
「もうこれ以上はよせ。見ればわかるだろう、アベルは疲れきっている」
 優しい言葉は自分に似合わないことはわかっていても、言わずにいられなかった。
「どうした風の吹きまわしなの? 駄目よ、エンリケ、下がっていてちょうだい」
 すぐに引き下がろうとはしないエンリケを、アグスティナはかるく睨みつけた。
「今夜は、私はこの奴隷の望みをかなえてやりたい気分なのよ。エンリケ、あなたはいつもやりたいことをやって生きて来たではないの? 今は下がってちょうだい」
 いったい自分がいつやりたことをやって生きてきたのだ! と叫びたい気持ちだったが、アグスティナはいつにもまして傲然としており、エンリケがなにを言っても聞き入れてくれそうにない。
 しぶしぶとエンリケは退いた。
 アベルは半ばぼんやりとしていたが、二人の宦官に引きずり起こされ、我に返った。
「あ……、いやだ……、な、なにを?」
「伯爵、もう少しがんばってちょうだい。この奴隷……ロロがね、今度は自分ひとりだけで伯爵と仲良くしたいのですって。いいわよね? 先ほども悪くはなかったのでしょう?」
「な、なにをする! あっ、な、なにを……!」
 二人の宦官にまたもはさまれ、アベルは強引に床を歩かされ、真紅の天鵞絨のしかれたところに立たされる。
 キリリリーと音がたち、天井に取りつけられていた滑車の鎖が降りてきた。
 元々いわくのある屋敷だけあって、こういった仕掛けがいたるところにあるのだ。
「あっ……! よ、よせ!」
 宦官たちはすでに屋敷の秘密は知悉しているらしく、下がってきた鎖の末にある滑車におどろきもせずそこへ縄をとおす。
 ふたたび軋んだ音をたて滑車が上がり、同時に縄が引っ張られていく。
「よ、よせ……! 何をする気だ?」
 通された縄の端が、アベルの両手首にまきつけられていく。
 アベルが困惑しつつも、歯を食いしばって新たな試練に立ち向かおうとしているのが知れる。
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