黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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最後の夢 三

 キリリリーーー。
 軋んだ音が鳴ると同時に、アベルの両手が引き上げられる。美しい顔に、かすかに苦悶が走る。
 さすがに、こらえていた溜息のような声がかすかに漏れた。
「どうして……こんな……」
 己の不幸と不運を恨むような、ひそかな嘆きのことばは、どれだけの人の耳に入ったか。
 アベルはきつく目を閉じている。
 上衣はかろうじて肌にはりついているが、下肢は痛々しいほどに剝きだしのままだ。
 擦りあわされた太腿が、羞恥と狼狽をつたえてくる。乙女のように恥じらう姿は、妖しいほどになまめかしい。
 アベルは「どうして」と嘆じるが、この身体に、この顔、そしてその気性を持ち合わせてしまったら、もはやこういう運命以外ありえないのではないか、とエンリケは思ってしまった。
 衣を剥ぎ取られるために、浅ましい姿勢を強いられ、欲望を受け止めるように、恥辱と屈辱を受けて、悔し泣きするように、アベルという人は生まれてきたのではないか、と半ば本気でエンリケは思ってしまう。
 隠すもののない下肢が客たちの視線に嬲られ、アベルは今にも全身から火を吹きそうだ。苦しげに歪む眉、現実からのがれようと閉じられた目、唇はあらたに苦痛の声をあげるかと、いったん開いたが、ふたたび、花が閉じるように閉まる。
 羞恥に頬を染め、うつむく風情は、帝国中、いや世界中のどんな美姫よりも美しい。
 アベルは、たんに顔形が美しいだけではない。頭のてっぺんから足の爪先まで、人の気を引きつけてはなさない、ふしぎな香のような霞をまとっているのだ。
 吊り上げられて動けず、苦痛に喘ぐアベルの全身が、真珠色の光をはなって見える。
 背後に立ったロロは、まるで魔香にてられたように、ふらふらと足元がおぼつかなくなっている。
 それでも、まるでしがみつくようにアベルの身体を抱きしめる。
「うっ……、は、はなせ! げ、下種! 異教徒!」
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