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最後の夢 九
「この脚本では駄目ね、ルイス」
原稿の束をディスクに投げ捨てるように置いて、クリスティーナは首を横に振る。
「わかっているよ、それはあくまでも下書きで、また書きなおすつもりだったんだ」
「構成に無理があるわ」
「それは仕方ないんじゃないかな? 原作そのものに無理があるんだよ。語り手となる登場人物が複数いるから、視点がぶれるんだ」
俺のせいじゃない、という言葉を言外にこめてルイスは静かに反論した。
眼鏡を取り、疲れた、というふうにクリスティーナは肩をすくめる。
「登場人物たちも多すぎるんじゃないの? 女はバルバラかアグスティナどちらかに統一したほうがいいわ。アイーシャはおもしろいキャラだから、そのまま残したいわね」
いかにも高級そうなスーツに包まれたほっそりとした身体をしなやかに伸ばして、クリスティーナは両手を頭上にあげて、身体をほぐすような動作を取る。自分が美しい、ということを充分自覚している動きだ。
クリスティーナは一流大学を出て、なぜかポルノ小説の出版社に五年つとめてから、そのあとまたどういうわけか映画界に転向し、今では女性ながら、ゲイポルノ映画の監督として名をはせた女傑である。
ルイスは、この業界ではそこそこ知られた脚本家だが、まだ代表作といえるような作品を出していない。
今回、クリスティーナが古典ポルノと呼ばれている『黄金郷の夢』と、その続編といわれる『黄金郷の白昼夢』をつづけて映画化することになり、仕事の依頼がまいこんできた。
ルイスは以前、ポルノとまではいかないが、官能的な作品をいくつか書いたことがあり、それらは有名女優が出演したこともあって作品のレベルは高く、芸術性もあり、それなりに評価された。
だが、さすがにゲイポルノは初めてだ。
ポルノといっても、この原作にはそれなりに文化的価値がある。歴史背景は、あえてぼかしてあるのか事実とちがうところがあるが、作中出てくるバルトラ公爵やアグスティナ侯爵未亡人、アビラ子爵など、歴史にも名がのこっている実在の人物である。主役のアベルに関しては、おそらく貴族名鑑から抹消されたらしく資料にはないが、伝聞では実在の可能性はなかり高い。
さらに、我が国最古の官能文学といわれてきた『黄金郷の夢』と『黄金郷の白昼夢』の二作は、ドミンゴ=カマノという人物によって書かれたと長年信じられてきたが、最近、歴史学者がこの二作は作者が別だと指摘した。
『黄金郷の夢』の作者がカマノであることは間違いないようだが、続編といわれてきた『黄金郷の白昼夢』の方は、別人の作のようだ。おそらく『黄金郷の夢』を読んだ人物が触発され、いわゆる二次創作のパロディとして書いたのだろう。現代でもあることだ。
「それはそうと、オーディションの方はうまくいっているのかい?」
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