煉獄の歌 

文月 沙織

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「ち、ちくしょう……」
 敬は屈辱に歯ぎしりした。
「たしかに綺麗な尻ですね」
「可哀想に、怯えて震えていますよ」
 二人の屈強そうな男たちの熱が迫ってきて、いっそう敬を圧倒するが、敬は声を絞り出していた。
「だ、誰が! 寄るな、下種野郎ども!」
 敬は屈辱のあまり涙ぐみそうになりながら、気炎を吐くことは忘れなかった。
 瀬津は、そんな敬のなけなしの負けん気を面白がるように、さらに臀部を右手でまさぐり、左片尻を掴んでみたりする。
「うっ! はなせよ! はなせ!」
 言われたとおりに、その手が離れたのは、敬の言葉を聞いたからではないことは、次に臀部を襲った打撃によって思い知らされた。

 パシン――!

「くぅっ……!」
 すぐ側で嶋の息を飲む音が聞こえる。
 不覚にも敬は怯えた猫のように、一瞬全身をすくませたが、次には燃えあがる屈辱と怒りに煽られ、身をよじって瀬津の片方の腕に噛みついていた。
「おっと」
 厚地の服にまもられた腕にはさして打撃を与えることもなく、瀬津は敬のやぶれかぶれの反撃を笑って見ている。そして、さらに右手を振りかざす。

 パシン――! 

「あっ!」
 思わず声をあげ、敬は背を反らしていた。
 さらに打擲ちょうちゃくはつづく。

 パシン、パシン!

「あっ! あうっ!」
 またたく間に、敬の雪のように白かった尻が、桜色にほんのり、やがて梅色に赤く染まっていく。
 パシン、パシン!

 それでも音は止むことなく、敬は抵抗できないまま、男の折檻を受けつづけ、やがて、悔しさが極まり、涙を浮かべた。
(くそぉ! ……畜生!)
 恥辱のあまり五体が燃え、額にはうっすらと汗が浮き、前髪がはりつくのが不快だ。
 敬は、畜生、畜生、とつぶやきながら、いつしか、憎い男の腕に顔を伏せ、その袖に涙を染み込ませていた。
「あーあ、泣いちまった」
 舎弟の一人の揶揄が、敬の耳に針のように尽き刺さる。
「どうだ、坊主、少しは反省したか?」
 瀬津が打擲の手を止め、敬の耳にささやく。
 その声は低く艶を帯び、どこか幼児をなだめるような、甘やかすようなもので、その奇妙な優しさが、かえって敬の意地を引きずりだした。
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