黄金郷の夢

文月 沙織

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陥穽 四

「そうか。満開になるには、まだもう少し時間がかかるな」
 王の目には、おそらくは薄紫の花びらを開けはじめた鳳凰木と、アベルの白い肌が映っているのだろう。
「待ち切れないようでしたら陛下、明日にでも、よろしいのでは? 六部咲きほどの花も、一興かもしれませぬ」
 カッサンドラの言葉に、控えていた男の肩がかすかに揺れる。
「ふむ」 
 数秒迷うような顔をした王だが、笑って首をふった。アベルはまだ花弁を開けきれない早生わせの花だ。完全に開花させるには、今少し時と、水と肥料がいるだろう。
「いや、やはりもう少し待つか。待つのも楽しみじゃ。予定どおりで事を進めるがよい」
「かしこまりました」 カッサンドラは頭を垂れた。
「では、行くとするか。よいか、おまえは今後もしっかりとあの〝小窓〟からアルベニス伯爵の様子を観察しているように。不穏な動きがあれば、すぐハルムかカイに伝えるのだぞ」
「か、かしこまりました」 
 男はあわてて首を縦に振った。

「では、伯爵、今日からは連珠れんじゅを使います」
 カイの言葉にアベルは唇を噛みしめた。
 うっすらと覚悟はしていたが、水晶の皿に載せられて出されたトパーズのつらなりを見るや、血の気が引いていくのを自覚せずにいられない。
「ご安心ください。こうしてたっぷりと濡らして」
 言うや、カイは香油のはいった紅玻璃べにはりの瓶を皿の上でかたむける。見るまに、とろとろと油に浸されて、色を変えたトパーズは、差しこんでくる陽光に、その濡れた色をきらきらと妖しく輝かせ、アベルの目を釘付けにする。
「や、やめろ……」
 言っても無駄だと思いながらも、言わずにいられない。
「往生際が悪いなぁ。ほら、準備をして」
 アベルは怒鳴りたいのをどうにか堪え、いつものように褥の上で四つん這いになり、アーミナに今までにも幾度となく強制されたように、腰を突き出す屈辱の姿勢をとる。一応、腰には白絹の帯布を巻かれているのがまだ救いだ。
 だが、それもアーミナによってまくりあげられ、白い尻が少年宦官たちの前にあらわにされてしまう。
「く……」
 それだけでも羞恥に額に汗を感じる。
 ずしり、と首と手首の枷もいつも以上に重く感じる。もはや、二度とこの枷を外されることはないのではないか、という絶望的な想いに負けてしまいそうだ。
(いや、カッサンドラがなんとかして、帝国の使者に伝えてくれるかもしれない。諦めるな。今は……耐えろ、耐えるのだ)
 アベルはみずからを叱咤した。
 そんなアベルの様子をどう取ったのか、エリスがはずんだ声で言う。
「やっと覚悟を決めたんですね、伯爵。大丈夫ですよ、怖いことなんて何もありませんよ」
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