燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「そうだと……いいのだが……」
 言われてみて、あらためて自分が客を取ることになるのだと実感し、背がこわばるのを感じた。
(男相手に媚を売るなど……、身体を捧げるなど、私にできるだろうか……)
 不甲斐ふがいなくも、いまさら恐怖を感じて逃げだしたくなってくる。 
「大丈夫よ。怖いのは最初だけ。あとは、どうにかなるわ」
 幼い顔に似合わぬ言葉で励まされ、リィウスはまた複雑な気持ちで、どうにか笑みを浮かべた。コリンナがすでに身体を売ることを経験していることに、異性と交わることを知っていることに、奇妙な心境にさせられる。
「タルペイアがね、リィウスには上客を紹介するって言ってたわ」
「……」
 リィウスは下唇を噛んだ。
「お金持ちのお客さんなら、いっぱいお金を払ってくれるから、借金なんてすぐ返せるわよ。いいなぁ」
「……おまえも借金があるのか?」
「うん。母さんの薬代でたくさんお金がいったから」
 薬代なら父親が払ってくれるのではないか、と言おうとしてリィウスは、あわてて口を閉じた。世間にはそういう父親もいるのだろう。おなじ家に住んでいない分、情もあまり感じないのかもしれない。親と子といっても関係が希薄な例は世間にざらにある。
「……少し、疲れた。これ、ありがとう」
 ろくに食べていないが、皿を返した。コリンナは気を悪くもせず、皿を受けとる。
「うん。……もう少し眠ったら、あとでお風呂に行くといいわよ。ここのお風呂、すごいの。ちゃんと三つあるの」
 三つというのは、熱浴室、冷浴室、温浴室のことだ。熱浴室で汗をかいて垢を落とし、例浴室で水を浴びて身体を冷やす。いきなり冷やすのが嫌な場合は、中間の温浴室に入って体温をととのえる。貴族の家には普通にあるもので、この館は元は貴族の女性の持ち物だったというから、そういった設備がととのっているのだ。それを珍しがるのは、コリンナが庶民の家で生活していたからだろう。
 街にも浴場はあるが、頻繁に行けるのは中流以上の裕福な人々だけで、普通の庶民なら七日に一度行ければいいぐらいで、それ以外は湯水で手足を洗うぐらいだ。奴隷は浴室を使うこともできない。
「ああ……あとで行ってみる」
 リィウスはだるくなった身体を横たえた。とにかく、もう少しだけ眠りたい。
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