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魔女たち 一
しおりを挟む「やっぱり事実だった」
「そうか」
メロペの話はディオメデスを喜ばせたようだ。
ディオメデスは、かたわらにしどけなく座っている竪琴弾きの女を、サンダルを履いたままの足で軽く蹴った。下がれ、という意味をこめて。
女は一瞬、黒い目に恨みを光らせたが、文句を言える立場ではないので、すごすごと室を去る。隅に控えていた女たちも下がる。
この時代、奴隷や召使は物言う家具、道具のようなもので、そこにいてもいないものとして扱うが、ディオメデスは、内密の話をするときはかならず奴隷を下がらせた。剛毅な彼だが、ときにはひどく慎重なのだ。周囲の人間を決して信じていないともいえる。
「リィウス=トゥリアス=プリスクスは、とうとう男娼に墜ちたか」
痛快そうにディオメデスは天井をあおぐようにして笑い、銀杯に満たしていたギリシャ産の葡萄酒を飲みほした。
笑うことによって整った顔がゆがむが、ずるそうにゆがんだその横顔が、また男の色香に満ちて魅力をはなつのだから始末に負えない。
かたわらで見つめるメロペは、柄にもなく目を伏せそうになった。とにかく、自分のもたらした情報が、この男を喜ばせ、こんな表情をさせたことが嬉しかった。
「なぁ、どうする?」
「どうするもなにも、そうなったら、是非、お手合わせ願わなければ」
「行くのか?」
「当たり前だ!」
吼えるようにディオメデスが笑顔でさけび、音をたてて杯をそばの銅卓に置く。
「そんな面白いものを見逃がせるか。あの気位の高い高慢な男が、どんな顔して俺に買われるのか、見物だな。かならず俺が最初の客になってやる」
ディオメデスには嗜虐の趣味がある。それはメロペにもあるもので、この時代の富裕層にはめずらしくない。。
金のために身を売らざるを得ない美しく誇り高い青年貴族、それも元学友を、金の力で我が物にすることを想像して、ディオメデスははげしく興奮し、欲情している。
「今夜、いや、いますぐ柘榴荘に人をやって、主人に話をつけておかねば。誰にもわたさんぞ、俺のものだ」
獲物をまえにした獅子のようにディオメデスはふたたび吼えた。
「あら、なんのお話なのかしら?」
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